| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-156  (Poster presentation)

積雪下で発芽することの適応的意義 -展葉日と成長率に注目して-【A】
Adaptive significance of germination under snowpack with respect to the timing of leaf expantion and growth rate【A】

*Kanta EBINA, Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

 落葉広葉樹種のブナ(Fagus crenata)やサトウカエデ(Acer saccharum)種子は積雪下において発芽する(以下、積雪下発芽)ことが報告されてきたが、適応的意義や進化的背景に関する研究は行われてこなかった。日本の寒冷地に分布し極相林を形成するブナを対象とした天然更新技術の改善・開発の貢献に寄与すると考え、積雪下発芽の適応的意義の解明を目的とする研究を行った。
 「積雪下発芽によって消雪直後に展葉し、光合成の開始を早めて成長率(消雪時の乾重を基準とした実生の成長量)を大きくしている」という成長フライング仮説を検証するために、ブナ種子を材料に栽培実験を行い、パス解析によって⑴~⑶の予想を検証した。⑴ 発芽長が長いほど子葉の展葉が早い(発芽長=幼根長+下胚軸長)。⑵ 子葉展葉日が早いほど、本葉展葉日も早くなる。⑶ 子葉及び本葉の展葉が早いほど成長率が大きい。
 解析の結果、予想⑴と⑵は支持された。積雪下における幼根と下胚軸を伸長によって、子葉が展葉する発芽長の閾値に達する日が早まり、子葉展葉日が早まったと考えられる。さらに、ブナ種子は子葉が本葉と上胚軸を包み込む構造であり、これらの成長開始には子葉の展葉が必要である。子葉展葉日が早まることで本葉と上胚軸の成長開始日が早まり、本葉展葉日が早まったと考えられる。一方で、子葉及び本葉の展葉日と成長率の間に有意な関係は認められず、予想⑶は支持されなかった。また、本葉面積が大きいほど成長率が大きくなる一方、発芽長が長いほど本葉面積が小さくなり、発芽長が本葉面積への影響を介して成長率に負の影響を及ぼすことが示された。積雪下発芽によって実生の本葉での受光面積が小さくなり、実生の成長に負の影響が表れると考えられる。
 本研究では、積雪下における幼根及び下胚軸が伸長によって春は明るい落葉樹林内で展葉を早める適応的意義と、積雪下発芽により実生の成長量が小さくなるという非適応的な面が初めて示唆された。


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