| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-159  (Poster presentation)

ブナ稚樹の葉フェノロジーの表現型可塑性とその遺伝的分化:移植・除雪実験による検討【A】
Phenotypic plasticity and its genetic differentiation in leaf phenology of Fagus  crenata seedlings:investigation by transplanting and snow-removal【A】

*工藤甲斐, 石田清(弘前大学)
*Kai KUDO, Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

落葉樹の開葉時期の進化には競争と晩霜害が関与している。積雪下で越冬する稚樹についてみると、春遅くに消雪する多雪地では消雪後に開芽するため、晩霜害のリスクは小さい。このため、多雪地の稚樹は消雪後ただちに開葉するように短い開芽期間(消雪日~開芽日までの期間)や小さな開芽積算温度を進化させていると予想される。しかしながら、森林内では、大径木の根元付近が早く消雪するという根開けが起こるため、消雪日の変異が大きい。落葉樹の冬芽は日射が当たらないと冬芽内の温度が下がり開芽が遅れるという性質を持つことから、雪穴状となった根開け地などの早期消雪地の稚樹は通常消雪地と比べて開芽期間が長く、開芽積算温度も大きいと予想される。一方、高標高地の稚樹は着葉期間が短く、晩霜害後の補償が困難なため、着葉期間が長い低標高地と比べて晩霜害による選択圧が大きく、長い開芽期間や大きな開芽積算温度が進化していると予想される。以上の視点から、森林内の消雪時期の変異に対する稚樹の開芽時期の表現型可塑性と遺伝的変異を解明するため、多雪地で優占するブナの稚樹を対象に、積雪が多い青森県八甲田山の標高の異なる2地点(低標高地、高標高地)において相互移植と除雪を組み合わせた実験を行い、消雪日と開芽時期の関係を分析した。各地点から当年生稚樹を1地点あたり160個体採取し、各地点に半数ずつ植栽した。翌春(自然消雪日の約1~3週間前)に各地点で植栽個体の半数に対して除雪処理を行うとともに、気温の計測と観察を行った。開芽期間と開芽積算温度について消雪日との関係を分析した結果、両植栽地・両産地で消雪日が早い稚樹ほどこれらの値が大きくなる傾向が認められた。産地間差についてみると、消雪日の早期化に伴う開芽期間の増加の程度、及び開芽積算温度は高標高地産の方が大きかった。以上の結果は、落葉樹稚樹の開芽時期についての予想を支持するものといえる。


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