| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-169  (Poster presentation)

日本産被食散布型植物の各階層における果実の色の多様性【A】
Diversity of fruit color in different vegetation hierarchies of animal-dispersed plants in Japan【A】

*松浦真央(大阪公立大学), 名波哲(大阪公立大学), 山岡里帆(大阪公立大学), 上羽亮太朗(大阪市立大学), 伊東明(大阪公立大学)
*Mana MATSUURA(Osaka Metropolitan University), Satoshi NANAMI(Osaka Metropolitan University), Riho YAMAOKA(Osaka Metropolitan University), Ryotaro UEBA(Osaka City University), Akira ITOH(Osaka Metropolitan University)

 動物被食散布型植物にとって、散布者の行動、感覚、嗜好に合致する形質をもつ果実をつけることは、個体の繁殖成功や集団の維持にとって重要である。中でも果実の色は、散布者がその存在を認知するための重要なシグナルである。本研究では、日本に生育する動物被食散布型植物を対象とし、多様な果実の色が創出・維持される要因の解明を目的とした。
 日本各地から採集した281種の果実の色を、分光反射率を測定して定量化し、目(order)ごとに色の多様性を評価した。その結果、構成種の平均植物高が高い目では、果実の色の多様性が低かった。これは、背の高い植物の果実は主に、4色型色覚と優れた視覚を持つ鳥類に採食されることに起因するのかもしれない。果実の色に対する鳥類の嗜好性により特定の色の果実が選択された結果であると考えた。一方、平均植物高が低い一部の目では、果実の色の多様性が高かった。背の低い植物の果実には、鳥類の他に哺乳類もアクセスしやすい。多様な動物に採食されることに加え、2色型色覚のために色の識別能力が低く、また、夜間に活動する傾向がある哺乳類に採食されることが、果実の色にかかる選択圧を弱め、多様性が維持された可能性がある。以上のように、果実の色の多様性の創出と維持には、散布者の色覚や嗜好性が選択圧として働いているという仮説を立てた。
 この仮説を検証するため、野外において動物の採食行動を実験的に観察した。野外に餌台を設置し、赤、黒、白、緑、青の5色の餌を同時に提示する給餌実験を行った。その結果、地面に設置した餌場に訪れた哺乳類では、特定の色を好む傾向は見られなかった。一方、地上約1.3 m付近に設置した餌台に訪れた鳥類は、色に対する嗜好性をもつ傾向があった。以上の結果は仮説を支持し、散布者の違いが果実の色の多様性を創出・維持する要因の一つであることが示唆された。


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