| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-180  (Poster presentation)

他殖促進が自家和合性を進化させるのか?:シミュレーション解析【A】
Does selection for outcrossing lead to evolution of self-compatibility?【A】

*佐藤大季(東北大学)
*Daiki SATO(Tohoku Univ.)

被子植物において自家不和合性は、花粉が持つ雄性因子と雌蕊が持つ雌性因子の組み合わせによって自殖が妨げられる形質のことである。この形質の喪失により自殖が可能になった状態を自家和合性と呼び、一般に、自殖が有利な環境条件において進化すると考えられている。しかし、雄性因子の変異による和合性の獲得には、交配できる個体が増えるという利点がある。ここから、私たちは、和合性の獲得が他殖を促進する戦略に伴って進化する可能性があると考え、自殖可能になる利点よりも、より多くの他殖相手と交配できる利点の方が大きい場合があるのではないかと推測した。 そこで本研究では、他殖の促進が和合性の進化をもたらしたという仮説を提唱する。
仮説が働くかどうかを調べるために、Tsuchimatsu and Shimizu (2013)を発展させたモデルを用いてシミュレーションを行った。モデルでは、全ての個体が交配可能な雌雄同株の植物集団を想定し、雄性/雌性因子の両方に和合性獲得のための変異を生じさせた。また、花形質の資源分配による訪花者への誘引効果の変化も考慮し、送受粉量を変化させた。 このようなモデルで、近交弱勢の強さや訪花効率などの値を変化させることで、自家和合性の定着率に変化が生じるか確認した。
シミュレーションの結果、初期条件の組み合わせによって、和合性の定着率が大きく変化した。定着率が高かった条件は、受粉効率が極端に高い条件と、極端に低い条件において主に見られ、この傾向は様々な初期条件の組み合わせにおいて共通していた。
受粉効率が極端に低い条件では、花粉制限が発生しやすく、繫殖保証のために自殖機能を獲得したと考えられる。一方で、受粉効率が極端に高い条件では、和合性を獲得した後も自殖率が低く、他殖を促進する傾向が見られた。 これらの結果から、和合性は自殖獲得と他殖促進の両方のために進化しうることが示唆された。


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