| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-209  (Poster presentation)

樹木における葉脈構造の進化動態とその駆動要因【A】
Evolutionary dynamics of  leaf vein structure in trees【A】

*佐々木陽依, 山尾僚(弘前大学)
*Hiyori SASAKI, Akira YAMAWO(Hirosaki Univ.)

葉脈は、光合成器官である葉において物質輸送と機械的支持を担う重要な組織である。葉脈の分岐パターン(葉脈構造)は、brochidodromous(ループ型)、craspedodromous(ツリー型)、semicraspedodromous(複合型)の3タイプに分類され、植物の環境適応に寄与していると考えられている。しかし、葉脈構造の進化を駆動した環境要因や葉脈構造と他の適応形質との進化的関係について全く検証が進んでいない。本研究では、2,099種の木本被子植物を対象とした葉脈構造のデータベースを構築し、葉脈構造の進化と生育地の気候帯(熱帯・温帯)の変化の関係性、および葉脈構造と気温や葉の他の機能形質(比葉面積(SLA)や窒素炭素比など)との関係性を系統を考慮して解析した。
その結果、ツリー型は熱帯から温帯へ生育地が変化した頻度が高く、どちらの気候帯でもループ型に進化した頻度が高かった。一方でループ型は、熱帯と温帯に生育地が同程度の頻度で変化し、温帯でのみ複合型やツリー型に進化したことが示された。さらに、生育地の最寒月の気温は、ツリー型、複合型、ループ型の順に低かった。このことから、熱帯と温帯のどちらにおいても、ループ型が適応的であり、ツリー型は温帯の、特に低温に適応的であると考えられた。また、葉脈構造は、光合成をはじめとした葉の機能的特性との関連が強いSLAと相関を示し、ループ型よりもツリー型でSLAが大きかった。以上より、1)葉脈構造は低温ストレス、またはそれに関連した選択圧に対する適応によって、温帯でループ型から複合型やツリー型に進化したこと、2)葉の機能的特性の適応進化を伴う葉脈構造の進化が、樹木の環境適応に関与していると考えられた。


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