| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-230  (Poster presentation)

立山連峰のモンキチョウ類は、どこからきたのか?【A】
Where did Colias butterflies in Tateyama mountains range originate ?【A】

*清水大輔, 山崎裕治(富山大学)
*Daisuke SHIMIZU, Yuji YAMAZAKI(University of Toyama)

 高山帯に代表される高標高地の複雑な地形や気象環境は、生物種の分布域形成に影響を与える景観学的要因となりうる。近年の温暖化によって、高標高地に生息する生物種の分布域の縮小、低標高地に生息する生物種の高標高地への移入が報告されている。高標高地における自然環境の適切な保全には、そこに生息する生物種の移入過程や分布域形成過程の理解が重要である。モンキチョウColias erateは、鱗翅目シロチョウ科に属する普通種であり、主に低標高地の草原帯に生息する。近年このモンキチョウが、富山県の立山連峰において多数観察されている。本研究では、立山連峰におけるモンキチョウの移入過程や分布域の変化を景観学的視点から考察し、立山連峰におけるモンキチョウ類の分布域形成過程を解明することを目的とする。2020年から2022年までの3年間に、富山県内の低標高地から高標高地においてモンキチョウ258個体を記録した。そしてモンキチョウの発育零点、有効積算温度、および月平均気温の平年値から2012年、2022年の成虫の年間出現回数を基準地域メッシュごとに算出した。また、富山市の気温変化(2.3℃/100年)を元に、各メッシュの2012年から2022年の気温変化の比率を反映し、過去(100年前)の気温を推定した。そして、同様に成虫の年間出現回数を算出した。その結果、2022年の標高1,000m以上の高標高地における年間出現回数が1回以上のメッシュ数は、2012年および過去のそれと比較し増加していた。次に、MaxEntを使用し、2012年と2022年の平年値の気象情報のそれぞれについて、成虫の生息適地を推定した。その結果、標高1,000m以上の高標高地において高い出現確率(20%以上)を示すメッシュ数は、2012年と比較して2022年において増加していた。これらの結果から、立山連峰における高標高地のモンキチョウの集団は、近年の富山県における低標高地から高標高地へのモンキチョウの分散によって形成された可能性があり、その形成要因の一つとして気温上昇が考えられる。


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