| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-264  (Poster presentation)

リン可給性の異なる土壌に生育するコナラの葉のリン画分【A】
Foliar phosphorus fractionation of Quercus serrata on a gradient of soil phosphorus availability【A】

*長谷川笑美(京大・森林生態), 水上知佳(京大・森林生態), 向井真那(山梨大・生命環境), 辻井悠希(九大・生物), 青柳亮太(京大・森林生態), 北山兼弘(京大・森林生態)
*Emi HASEGAWA(Forest Ecology Kyoto U), Chika MIZUKAMI(Forest Ecology Kyoto U), Mana MUKAI(Yamanashi U), Yuki TSUJII(Biology Kyusyu U), Ryota AOYAGI(Forest Ecology Kyoto U), Kanehiro KITAYAMA(Forest Ecology Kyoto U)

リンは生物の必須元素であり、細胞の構造、遺伝や代謝に関わる。これらの機能と関係し、植物体のリンはそれぞれ3つの画分(脂質態、核酸態、代謝態(無機態含む))と化学操作上抽出できない残渣態の4つに大別できる。植物は、リン可給性に応じて葉内でリン画分の分配比を変化させ、生理的機能を最適化させていると思われる。複数種の種間比較から、リン欠乏度が高いと脂質態へのリン分配が低下することが示されているが、種内変化については未解明である。そこで本研究では、幅広い土壌リン傾度に分布するコナラを対象にリン欠乏度に応じた葉のリン画分の種内変化を解明した。
 日本国内のリン可給性の異なる土壌に生育するコナラ優占林8地点を調査地とした。生葉が成熟してから老化が始まるまでの間の6月中旬から10月初旬にかけて、各調査地で林冠に達したコナラから生葉を採集した。有機溶媒や酢酸で各画分を逐次抽出し、各画分のリン濃度を測定した。
リン欠乏度が高いほど生葉の全リン濃度が低いリン画分の濃度は一様に低下した。しかし、リン欠乏度に対するリン画分の割合の変化様式は画分間で大きく異なっていた。全リンに対する脂質リンの割合はリン欠乏に応じて有意に減少したのに対し、核酸態リンおよび無機態リンでは有意に増加していた。細胞膜を構成する脂質態のリンは硫黄や糖に置換されることが知られているが、代謝態や核酸態のリンは置換されない。そのため、リン欠乏下でも代謝や遺伝の維持のために、無機態を含む代謝態や核酸態へのリン分配が相対的に高まったと考えられる。また、リン画分の分配にサイト間差が見られたことから、リン分配に関し、土壌リンに応答した種内変異がコナラに存在している可能性が示唆された。以上より、コナラはリン欠乏の度合いに応じて葉内リン画分の分配調節を行い、限られたリン資源の利用を最適化して環境に適応していることが示唆された。


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