| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-268  (Poster presentation)

バイオチャー散布が暖温帯コナラ林における7年間の土壌炭素フラックスに及ぼす影響【A】
Effects of biochar application on soil CO2 fluxes in Quercus serrata forest for seven years【A】

*岡田駿(早稲田大学), 月森勇気(早稲田大学), 惠日格也(早稲田大学), 友常満利(玉川大学), 小泉博(早稲田大学), 吉竹晋平(早稲田大学)
*Shun OKADA(Waseda Univ.), Yuki TSUKIMORI(Waseda Univ.), Kakuya ENICHI(Waseda Univ.), Mitsutoshi TOMOTSUNE(Tamagawa Univ.), Hiroshi KOIZUMI(Waseda Univ.), Shinpei YOSHITAKE(Waseda Univ.)

 バイオチャーとは、有機物を低酸素条件下で熱分解して生じる生成物のうち、土壌改良資材として利用されるもので、分解が遅いため、炭素隔離の効果的な手段として注目されている。一方、バイオチャーを土壌に散布すると、微生物による有機物の分解が促進され、土壌から大気へと放出される従属栄養生物呼吸(HR)が増加し(正のプライミング効果)、これによって炭素隔離効果が減少する可能性が指摘されている。しかし、バイオチャー散布後のHRに関する短期的な研究はいくつかあるものの、長期的な(>3年)変化を解明した研究は少ない。特に、陸上最大の炭素吸収源である森林生態系における研究はほとんどない。そこで、本研究では暖温帯コナラ林において7年間にわたる調査を行い、バイオチャーがHRに及ぼす長期的な影響を解明することを目的とした。
 2015年11月に、埼玉県本庄市のコナラ林内に20 m×20 mのコドラートを12個設置し、バイオチャーを0, 5, 10 t ha-1散布した処理区に分けた(それぞれC0, C5, C10区、n=4)。2017年7月から9月にかけて各プロットに1つトレンチ処理区を設け、2017年10月から2022年11月までほぼ毎月、土壌呼吸速度を密閉法により測定し、HRとした。同時に、地温と含水率の測定を行った。
 年間HR量は3年目ではC5区およびC10区で、4年目以降はC5区で大きい傾向を示した。平均年間HR量はC5区で有意に大きかった。温度呼吸曲線におけるQ10値に処理区間で違いはなかったが、R20(20℃におけるHR)はC5区で有意に高くなった。また、地温、土壌含水率に有意な変化はみられなかった。
 以上の結果から、バイオチャーは地温、含水率、HRの温度依存性を変えることなくHRを増加させることが示唆された。また、バイオチャー散布によって正のプライミング効果が引き起こされることが明らかになったが、散布量の違いによってその程度が異なる可能性が示された。今後はバイオチャー散布に対するHRの詳細な応答機構について解析を進めていく必要があるだろう。


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