| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-278  (Poster presentation)

エゾシカに寄生するマダニ種構成の季節変化【A】【B】【E】
Seasonal changes in the species composition of ticks attached sika deer (Cervus nippon yesoensis)【A】【B】【E】

*清水広太郎(北大・獣医・野生動物), 山中正実(知床財団), 伊藤源太(知床財団), 中尾亮(北大・獣医・寄生虫), 佐鹿万里子(北大・獣医・野生動物), 下鶴倫人(北大・獣医・野生動物), 坪田敏男(北大・獣医・野生動物)
*Kotaro SHIMIZU(Hokkaido Univ. Wildlife), Masami YAMANAKA(Shiretoko Nature Foundation), Genta ITO(Shiretoko Nature Foundation), Ryo NAKAO(Hokkaido Univ. Parasitology), Mariko SASHIKA(Hokkaido Univ. Wildlife), Michito SHIMOZURU(Hokkaido Univ. Wildlife), Toshio TSUBOTA(Hokkaido Univ. Wildlife)

 マダニ媒介性感染症は公衆衛生上の大きな懸念事項とされている。日本に生息する野生動物の中でシカは比較的大型の哺乳類であり、マダニの吸血源として重要な役割を果たしている。近年、北海道ではエゾシカの個体数が急増しており、人のマダニ媒介性感染症のリスク増加が危惧されている。マダニ媒介性感染症のリスクを低減するためには、マダニと宿主動物の関係を生態学的視点から考察する必要がある。本研究では、マダニとエゾシカの関係を解明するために、エゾシカに寄生するマダニ種構成の月ごとの変動を明らかにした。
 2022年6~10月にかけて北海道で生体捕獲もしくは狩猟されたエゾシカ112頭からマダニを採取した。マダニは片耳からのみ採取し、咬着していたすべてのマダニを回収した。採取したマダニは形態学的な特徴をもとに種・発育ステージ・性別を同定した。幼ダニについては正確な形態学的同定が困難であったため解析には使用しな かった。
 調査の結果、ヤマトマダニ、シェルツェマダニ、ヤマトチマダニ、オオトゲチマダニ、フタトゲチマダニの5種がエゾシカから採取された。各マダニ種の寄生数には明瞭な季節変動がみられ、6~8月はマダニ属、9~10月はチマダニ属が優占していた。また、寄生していたマダニのステージ構成についても種および月による差異がみられた。ヤマトマダニは全調査期間を通じて雌成ダニが優占していた一方、シェルツェマダニは若ダニが優占していた。ヤマトチマダニおよびオオトゲチマダニは寄生数が少ない月では雌成ダニや若ダニが多い一方、寄生数が増加する9月および10月には雄成ダニが優占していた。
 本研究によって、マダニ種および発育ステージごとに異なる季節変動がみられることが明らかとなり、マダニとエゾシカの関係の一端が解明された。この結果は各マダニ種の生態学的特徴を反映していると考えられ、両者の間にはマダニ種ごとに異なる関係が存在することを示唆している。


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