| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-282  (Poster presentation)

皮膚疾患の病態と関係する細菌叢【A】
Bacterial flora related to the pathogenesis of skin diseases.【A】

*佐野真規(千葉大・院・融合), 村上正志(千葉大・院・理)
*Masaki SANO(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物の体表や腸内には常在菌叢が成立し、安定的な環境の維持と外的な病原体の侵入を防いでいる。アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患のひとつであり、乳幼児期に発症することが多いが、この発症と皮膚細菌叢には関連があるとされている。細菌叢成立に伴う免疫応答に関する研究が活発に行われる一方、細菌叢の成立過程にも興味がもたれる。出生後に細菌叢が成立する過程は、MacArthur & Wilson による島嶼生物地理学の過程と合致する。これを個体レベルに置き換えたHubbellの中立理論が整備され、さらに、Sloanはこれを微生物群集に適応したモデルを提案している。本研究では、日本の新生児 227 人について、生後3日、1、4、6ヶ月目に頬から得られた細菌叢について、16SrRNA に基づく細菌の種(OTU)と量(NGSリード数)、皮膚の炎症の有無に関するデータを用いて、細菌叢の動態と炎症の関係を生態学的な枠組みで明らかにする。まず細菌のα多様度は、生後月を追うごとに高まったが、発症により低下する傾向がみられた。β多様度を各個人の検査時前後で比較すると、月を追うごとに低下し皮膚細菌叢が平衡に向かう様子が見られた。次に局所群集(各個人)への移入の程度を推定するとともに、その種の有無を中立な期待値と比較することで、特定の環境(病状)に特異的な種の割合を算出した。その結果、メタ群集から局所群集への移入率が月を追うごとに低くなることと、さらに、症状のあるヒトでより低くなることがわかった。一方、月を追うごとに希少種であるがより多くのヒトで見られる種が増加する、つまり、常在と考えられる種の定着が見られた。ただし、症状の有無では違いは見られなかった。これらのことから、出生後、皮膚の細菌叢が外部からの移入により形成されるなかで、アトピー患者では発症によって移入が妨げられ、細菌叢の多様性が低下すると考えられた。


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