| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-284  (Poster presentation)

食料システムの再考に基づく、温室効果ガスと生物多様性の影響の評価【A】
Reconsidering the food system to mitigate the consequences of greenhouse gas emissions and biodiversity【A】

*井上里彩(横浜国立大学), 森章(東京大学)
*Risa INOUE(Yokohama Nat. Univ.), Akira S MORI(The University of Tokyo)

 世界の食料システムを変革することは、パリ協定やポスト2020地球規模生物多様性枠組などの世界的な目標を達成するために不可欠である。特に生産段階は、世界の温室効果ガスの総排出の約21%を占め、世界の居住可能な土地の約半分は農地として利用されているため、温室効果ガス排出と生息地の損失の大きな要因となっている。これは、特に社会的に疎外されたコミュニティにとって、人間の生活、食糧安全保障、公衆衛生にリスクをもたらしている。食料システムの再考は、気候変動と生物多様性のさらなる影響を緩和し、持続可能で衡平な社会を実現するための鍵である。
 農業分野において、特に牛肉生産は、他のタンパク質摂取食品と比較して、温室効果ガス排出量や土地使用量が多く、環境負荷が高い。つまり、牛肉の摂取量を減らすことで、環境負荷を大きく軽減できる可能性がある。
 また、近年のグローバル化により、食料消費による環境負荷の約4分の1から2分の1は消費地と異なる地域で発生しており、生産国での環境負荷を消費者が認識しにくくなっている。生物多様性の損失や気候変動に立ち向かうためには、食料貿易における遠隔環境責任に取り組む必要がある。
 ここで、本研究では、牛肉の消費を先行研究で提案された摂取値まで減らすことによる環境影響について、生物多様性負荷、牛からのメタン排出量、炭素隔離機会損失量に着目して試算した。これは、将来の行動変化による潜在的な利益を表している。2010年を基準年として、国連食糧農業機関のデータを分析した。
 本研究より、牛肉生産の削減が環境負荷の大きな削減につながる可能性を持っていることを明らかにした。また、国ごとに生じやすい環境負荷が異なったため、国ごとに対策を変える必要がある。必要以上の消費による自国での環境負荷と、貿易による環境負荷の責任の移動について可視化を行うことができたため、今後、より具体的で効果的な対策をとる必要がある。


日本生態学会