| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-292  (Poster presentation)

都市近郊の皆伐更新地における開花草本の多様性の検証:複数の形質に着目して【A】
Diversity of flowering herbaceous plants in the urban woodland: focusing on multiple traits【A】

*赤尾智宏, 倉本宣(明治大学)
*Tomohiro AKAO, Noboru KURAMOTO(Meiji Univ.)

 都市近郊の雑木林において、労力や費用の問題から植生管理が小規模に行われる場合がある。生物多様性の向上を目指すには、これらの利点を活かした管理手法も重要である。空間的な環境不均一性(空間EH)は、ニッチ空間の増加による多くの種の共存促進や、不利な環境条件からのシェルター提供など、植物の種多様性にも寄与する。これは局所スケールでも機能する。本研究では、局所の空間EHが小規模管理で維持された皆伐更新地の林床植生に与える影響を、開花の段階から検討する。
 狭山丘陵(埼玉・東京)の2箇所の緑地にて、2021年4~5月、6~7月、2022年4月の計3回にわたり、開花植物の種組成、地面からの花の高さ、花数を記録した。また2021年5~6月に植生調査、7~8月に開空率の測定を行った。
 開花植物の種多様性が高い地点と、草原性植物が特異的に開花した地点は一致せず、それぞれで共存する植物の花の高さにも一部で有意差がみられた。林床では植物同士の光資源をめぐる競争が起きている。草原性植物の開花地点は、定期的な下草刈りによって競争が緩和され、他の生育立地条件の種にも有利な空間が維持された可能性がある。また草原性植物の中には、他の植物の開花を妨げている種が確認された。特に伐採跡地の種は林床を被陰することで、伐採による光環境の改善を相殺することがある。このような種は、目立つ花をつける草原性の指標種であっても刈り取るべきであろう。
 皆伐更新地の光環境は、①上層木により林冠がどの程度閉鎖されているか、②下草により地面付近がどの程度被陰されているかの階層で捉えられる。開花植物の空間EHは、局所であっても、この階層ごとの違いに強く規定される。特に異なる生育立地条件の種は、時間的要因や局所的要因にも依存する。そのため林床の種多様性を向上させるには、土地・管理履歴を踏まえて小規模皆伐管理を行う林分を選定する必要がある。


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