| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-294  (Poster presentation)

半自然草地における耕作履歴が植物・昆虫の群集構造に及ぼす影響【A】
Land-use legacy effects on plant and insect community structure in semi-natural grassland.【A】

*坂上翼(東京農業大学), 山崎海都(東京農業大学), 田村拓也(東京農業大学), 石坂真悟(NPO多摩源流こすげ), 今井伸夫(東京農業大学)
*Tsubasa SAKAGAMI(Tokyo Univ. of Agric.), Kaito YAMAZAKI(Tokyo Univ. of Agric.), Takuya TAMURA(Tokyo Univ. of Agric.), Shingo ISHIZAKA(NPO Kosuge), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. of Agric.)

 かつて里山の非耕作地において古くから維持されてきた半自然草地は、近年急速に減少しており、それに伴う草地性生物の減少が問題になっている。一方、近年の耕作放棄に伴って、耕作跡地に新たに半自然草地が成立している。こうした新たな草地の生物群集構造は、過去の土地利用履歴の影響を受ける事が分かりつつある。しかし、これらの知見は未だ乏しく、特に里山景観に特有な刈取草地についての研究は無い。そこで本研究では日本の里山において、耕作履歴の無い土地に維持されてきた「古い」草地と、耕作跡地に新規成立した「新しい」草地間で、植物と昆虫の種多様性を比較することを目的とした。
 伝統的農地景観が広がる山梨県小菅村において、3種類の草地管理(景観管理、山菜採草、ススキ採草)と、草地の新旧によって、6タイプの草地を設定した。各タイプあたり12プロット(計72プロット)において、2019-2021年にかけて植生調査とスウィープ法による昆虫調査を行った。
 植物では266種、昆虫では約680種が観察された。草地管理によらず「新しい」草地の方が「古い」草地よりも、植物の種数と希少種数は低く、帰化率は高かった。一方、昆虫の種数や個体数は、意外にも「新しい」草地の方で高かった。これは、内部組織を食べる植食者(カメムシ目やハエ目の一部など)、捕食寄生者(ハチ目の一部など)、狭食性の植食者の種数と個体数が増加していたためであった。一方で、腐植食者や菌類食者、広食性の植食者の種数と個体数は減少していた。「新しい」草地には耕作放棄後数年~約40年の幅があり、約40年経過した草地でも同様の傾向が見られた。以上から、耕作放棄後に新規成立した半自然草地は、帰化植物の移入や植生の均質化、昆虫の食性の均質化が起こりやすいと考えられた。また長期間を経ても尚これらの影響は残り、古くから維持されてきた半自然草地とは異質な生態系となると考えられた。


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