| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-295  (Poster presentation)

世界自然遺産徳之島における外ネコの食性の経年変化からわかること【A】
Annual shift of food habits of free-ranging cats on Tokunoshima Island, a Natural World Heritage island.【A】

*高橋芳歩(東京大学), 鈴木魁士(東京大学), 伊澤あさひ(東京大学), 塩野﨑和美(奄美自然研), 亘悠哉(森林総合研究所), 宮下直(東京大学)
*Kaho TAKAHASHI(University of Tokyo), Kaishi SUZUKI(University of Tokyo), Asahi IZAWA(University of Tokyo), Kazumi SHIONOSAKI(AWARC), Yuya WATARI(FFPRI), Tadashi MIYASHITA(University of Tokyo)

2021年に世界自然遺産に登録された徳之島では、野外生活を行うイエネコ(以下、ネコ)が人の餌やりにより増加し、それらが森林域に侵入することで在来種への捕食が生じている。現在、環境省や町役場による外ネコの管理が行われており、森林域では捕獲が、人里ではTNR(不妊化)や条例・法律改正によるネコの放し飼いや餌付け及び牛舎内での飼育の禁止が行われている。しかしながら、人里での対策の効果や、在来種の回復、ネコの食性の経年変化については評価されていない。
そこで本研究では、徳之島の森林域における対策で捕獲されたネコ、計513個体の食性の経年変化と、捕獲データ及び撮影データから算出したネコや希少動物の密度(CPUE、撮影頻度)変化の関係を評価した。また、人里のTNR事業により捕獲されたネコのTNR割合を算出し、牛舎での聞き取り調査から条例・法律改正によりどの程度人々の行動変容が起きたかを明らかにした。そして里ネコのCPUEの変化により人里での対策の効果を評価した。
その結果、森ネコのCPUEは減少傾向にあるのに対し、希少動物の撮影頻度は増加していた。食性分析による餌の出現頻度の経年変化は、動物全体で減少傾向にあった。里ネコのTNR率は2019年に18.1%、2022年に23.5%とやや増加したものの、TNRは十分には進んでいないことがわかった。また、牛舎でのネコへの餌付け率は2018年時点で45.8%、2022年に36.4%となり、わずかに減少した。条例・法律を認知しているにもかかわらず、牛舎で餌付けを続けているのは52.3%を占めていた。このことから条例・法律が行動変容に繋がっているとはいえず、さらなる策を講じる必要があると考える。さらに、里ネコのCPUEは2018-2019年で0.066、2022年で0.058とやや減少したが、里ネコ対策の効果はほとんど出ていないことがわかった。徳之島の森林は狭く集落や畑と隣接しており、ネコの侵入リスクは極めて高い。絶滅危惧種の捕食を防ぐためにも、人里での対策をより強化していくことが求められる。


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