| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-298  (Poster presentation)

ナガレトビケラにおける交尾器の形態変異:形質の機能性と種内・種間での変異の関係【A】
Morphological variation of genitalia in Rhyacophila species focusing on functionality and variation between and within species of traits【A】

*佐藤緑海(千葉大・院・融合), 倉西良一(千葉大・院・理), 村上正志(千葉大・院・理)
*Ryo SATO(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Ryoichi KURANISHI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

昆虫の交尾器形態は一般に種の分類形質として使われ、種特異的な鍵と鍵穴関係により種内で特殊化する一方で、種間での多様化が見込まれる。こうした種内での交尾器形態の特殊化は種特異的な性選択圧によることが幾つかの生物種で示されている。また、交尾器形態の変異性はその機能性と関係することが示されており、機能的な部位で形態の種内変異がより小さいことが幾つかの例で示されている。一方で繁殖に関わる形質は一般に性特異的に発現し、片方の性でしか選択を受けない。そのため繁殖に関わる遺伝子への選択は緩和することが理論的に示されている。実際にショウジョウバエ属では、精液タンパク質の発現に関わる遺伝子が種内・種間ともに多様化することが実証されている。こうした選択の緩和は鍵と鍵穴関係に反して交尾器形態の種内での多様化に繋がると思われ、その種内・種間変異の実態に興味が持たれる。そこで本研究では、ナガレトビケラ属の4種を用い、交尾時に雌交尾器との接触による機能性が示唆された雄交尾器形質のⅩ節と下部付属器端節、パラメアで形態・サイズ変異の傾向を非繁殖形質と比較した。非繁殖形質には前翅と前脚脛節を用いた。形態解析の結果、交尾器形質でより形態の種間差が大きく、特に下部付属器端節でその傾向は著しかった。また種内の形質ごとの形態のばらつきは、Ⅹ節よりも下部付属器端節で小さかったが、いずれの交尾器形質の値も非繁殖形質より大きかった。一方で形質間のサイズ変異の比較では、下部付属器端節とパラメアで非繁殖形質とは異なる種間変異の傾向が見られ、これらの形質が繁殖に関して機能的であることを示唆した。さらに下部付属器端節では形態の大きな種間変異が見られたため、交尾時の鍵と鍵穴関係を担っている可能性も示された。一方で交尾器形態は大きな種内変異も示し、繁殖形質のうち交尾器形態の形成に関わる遺伝子にかかる選択が緩和していることを示唆した。


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