| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-299  (Poster presentation)

日本固有ヒキガエルにおける渓流適応の進化【A】
Evolution of lotic adaptation in Japanese toads【A】

*田中花音, 西川完途, 原壮大朗(京都大学)
*Kanon TANAKA, Kanto NISHIKAWA, Sotaro HARA(Kyoto Univ.)

両生類では繁殖生態の変化が種分化につながる。そして繁殖場所の環境条件が変わると、幼生形態もそれに応じて適応進化して生態的にも分化する。ゆえに両生類の幼生形態の適応や多様性を研究することは、種分化にともなう進化生態学的変化のテーマとして有用である。日本固有ヒキガエルでは流水産卵性のナガレヒキガエルが止水産卵性の祖先から進化してきた。本種の幼生は渓流適応形質と考えられる細長い尾や大きな口器をもつが、他の形質にも渓流への適応進化の認められる可能性が高い。
そこで本研究では、流水産卵性ナガレヒキガエル、止水産卵性アズマヒキガエルとニホンヒキガエルの3種/亜種の日本固有ヒキガエルの幼生を飼育し発生段階ごとの標本を作製後、各部位の測定や幾何学的形態測定を行い、種間比較を行うことで、日本のヒキガエルにおける渓流適応形質の詳細の解明を試みた。
尾に関する解析の結果、体長に対する尾長の割合は流水産卵性と止水産卵性で差は出なかったが、尾筋の相対的な太さは流⽔産卵性の⽅が⼤きく、尾の相対的な高さは⽌⽔産卵性の⽅が⼤きかった。そのため、流水産卵性の幼生は水の抵抗を減らす細長い形で、かつ鰭の割合が小さい筋肉質な尾で流水に適応していることがわかった。
次に、頭部および胴体に関する解析の結果、流水産卵性は止水産卵性に比べて目と鼻が背面後方に位置していたが、胴体の形状には差はなかった。背面側に位置する目をもつ流水産卵性の幼生は、岩にへばりついて上方を窺う底生型の生態で渓流適応していた。さらに背面後方にある目と鼻は、大きな口器を持つことで吻を動かす筋肉が発達しているためと考えられ、これも流水産卵性の幼生の適応的な形質であることを示唆した。そのため、流水産卵性の幼生は低平な胴体で水流の抵抗を小さくするよりも、吻部の筋肉を発達させて岩にへばりつくことで流れに抵抗していると考えられた。


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