| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-302  (Poster presentation)

ブナとイヌブナ間の葉緑体DNAの共有を説明する遺伝子浸透仮説の検証【A】
A test for introgression hypothesis explaining the sharing of chloroplast DNA between Fagus crenata and F. japonica【A】

*鈴木春音(名古屋大学), James R.P. WORTH(FFPRI), 戸丸信弘(名古屋大学)
*Harune SUZUKI(Nagoya Univ.), James R.P. WORTH(FFPRI), Nobuhiro TOMARU(Nagoya Univ.)

異なる植物分類群間における葉緑体DNAの共有は一般的に観察されてきた。この現象を説明する要因として、種間交雑とその後の戻し交雑による遺伝子浸透(以下、遺伝子浸透仮説)、祖先多型の保持、収斂の主に3つが挙げられる。植物における種間の遺伝子流動のポテンシャルの高さから、遺伝子浸透仮説が最もよく説明に用いられてきた。茶臼山自然園アテビ平小鳥の森(長野県下伊那郡売木村)ではブナとイヌブナが同所的に生育しており、イヌブナはブナの葉緑体DNAハプロタイプを共有していた。これは上記の遺伝子浸透仮説によって説明できる可能性がある。そこで、本研究は、このイヌブナにおけるブナの葉緑体DNAハプロタイプの共有が遺伝子浸透仮説で説明できるかどうかを検証した。アテビ平に生育するブナ47個体とイヌブナ47個体の全94個体を対象にddRADシーケンシングを行った結果、4130座のSNPが得られた。これらのSNPを用いて、RのパッケージLEA に実装されたsNMFを用いてクラスタリングを行った。また、FST>0.90を満たした365座のSNPを用いてNewHybrids解析を行い、各個体をブナ、イヌブナ、F1、F2、ブナへの戻し交雑雑種、イヌブナへの戻し交雑雑種の6つの系譜に割り当てた。その結果、クラスタリング解析(K=2)では、種間でわずかなクラスターの混合(<7%)が検出された。NewHybrids解析では、F1、F2、戻し交雑雑種が検出されなかった。このことから、種間のクラスターの混合は現在の交雑ではなく過去の交雑に起因することが示唆された。さらに、RのパッケージdiveRsityに実装されたdivMigrateを用いて、種間の遺伝子流動を評価した。その結果、両方向の遺伝子流動が検出され、ブナからイヌブナに非対称な遺伝子流動が生じていた。以上の結果はアテビ平におけるブナとイヌブナ間の遺伝子浸透仮説を支持していた。


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