| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-306  (Poster presentation)

イトヨ近縁種における環境ストレス耐性の違いとその分子機構【A】【E】
Molecular mechanisms underlying variation of environmental stress tolerance in sticklebacks【A】【E】

*原田慧, 石川麻乃(東京大学)
*Kei HARADA, Asano ISHIKAWA(The university of Tokyo)

生物の環境ストレス耐性は、新規ニッチへの進出能力やその後の多様化に重要である。しかし、具体的に、どの耐性のどんな分子機構が新規ニッチへの進出能力を左右するのかはほとんど分かっていなかった。これを解明する最適なモデルの一つがイトヨ近縁種である。イトヨGasterosteus aculeatusとニホンイトヨG. nipponicusは約68万年前に分岐した。イトヨは淡水域の新規ニッチに進出したのに対し、ニホンイトヨはこれらに進出していない。近年、私たちの研究グループは、高度不飽和脂肪酸の合成能がこの2種の淡水進出能力を決める要因の一つであると明らかにした。一方、この他にも魚類の環境ストレス耐性について、低温、高温環境で筋肉組成や代謝が変化すること、淡水、海水曝露時に機能するホルモン群やイオン調節遺伝子群などが知られている。そこで本研究では、イトヨ近縁種でこれらの環境ストレス耐性を調べることで、新規ニッチへの進出能力を決定する新たな分子機構を解明する。
まず、イトヨ、ニホンイトヨの環境ストレス耐性を比較した。16℃、長日条件、海水環境、海産餌給餌したコントロール群に対して、低温、高温、低浸透圧、高度不飽和脂肪酸欠乏、短日条件にそれぞれ約1年間曝露すると、ニホンイトヨはイトヨよりもコントロール群、高度不飽和脂肪酸欠乏、低浸透圧、短日条件群で生存率が低い一方、低温、高温群では生存率が高かった。これは、ニホンイトヨが淡水域に生息しない一方で、幅広い温度帯の汽水域に生息する点と一致する。次に各環境ストレス下での代謝変化を明らかにするため、肝臓での遺伝子発現解析を行った。本発表では、特に脂肪酸合成、代謝関連遺伝子群の結果から、環境ストレス耐性や新規ニッチ進出能の違いにおけるこれらの機能を考察する。この結果は、環境ストレス耐性と異なるニッチ進出能力を繋ぐ新たな分子機構を示唆するものである。


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