| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-308  (Poster presentation)

大量反復の微生物群集設計から何がわかるか:群集形成過程に潜む確率性を理解する【A】
Massive replications of microbial community: understanding the stochasticity behind the community assembly process【A】

*林息吹, 東樹宏和(京都大学)
*Ibuki HAYASHI, Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.)

発酵や汚水処理など、微生物群集全体の機能が利用される局面は増えつつあるが、多種群集における各種のアバンダンスの予測・制御は、理論と応用の両面から見て重要な課題である。これは、微生物群集の動態を左右する要因に、浮動や分散などの確率論的プロセスから、生物間相互作用や環境適応を含む選択などの決定論的プロセスまで、様々なプロセスが含まれる事に起因している。
応用上の観点から、群集の可制御性に着目した場合、群集が安定でかつ再現性を持っていることが重要であるため、ある群集の種構成や各種のアバンダンスによらない確率論的要因が、群集動態にどの程度影響を及ぼすかを理解する必要がある。
上で考える確率論的要因のみを分離して条件化する事は、数理的には可能である一方で、様々な理由から実際上は非常に困難である。しかし、初期条件を同一にした複数の群集が、どのような状態に遷移するのか観察する事が出来れば、群集形成過程に含まれる確率論的要因の重要性を検討する事は可能である。
そこで、実際に多種系からなる微生物群集に関して、様々な培地条件下で大量反復を設けて培養実験を行い、得られたサンプルについて、DNAメタバーコーディングを用いて、群集における各種のアバンダンスの経時変化を観察した。その結果、培地条件によって反復間のバラつき具合が異なる、というパターンが得られた。加えて、この反復群集間の遷移パターンを説明するには、決定論的要因と確率論的要因の両者が必要である事が示唆された。
この結果を踏まえ、確率論的要因が群集形成に及ぼす作用をより深く理解するために、確率変動の影響を定量するべく、初期群集密度を変えた大量反復群集実験を追加で行う事で、多種群集における代替状態の創発について、決定論プロセスと確率論プロセスの両者が重要である可能性を実証的に検証した。


日本生態学会