| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-320  (Poster presentation)

日本列島のツヤヒラタゴミムシ属におけるニッチ・形質進化【A】
Niche and morphological evolution of the genus Synuchus (Coleoptera: Carabidae) in Japan【A】

*清水隆史, 久保田耕平(東京大学)
*Takashi SHIMIZU, Kohei KUBOTA(The University of Tokyo)

 昆虫は,これまでに記載された種の約半数を含む,最も種多様性が高いグループである。この昆虫の種多様化には生態の多様化が深く関わっており,特に移動能力に関する生態進化は,集団間の遺伝的分化がもたらす異所的種分化と関係するため,種多様化を考える上で重要である。近年,昆虫の中で最も種多様性が高い甲虫目において,飛翔能力の退化が種分化を促進するという仮説が提唱された。昆虫における飛翔能力の退化は,飛翔頻度の減少→飛翔筋の退化→後翅の退化の順に生じるが,この仮説を扱った先行研究では,退化の進行過程は考慮されてこなかった。しかし,飛翔能力の退化は段階的に生じるため,退化過程と異所的種分化の関係を検討することは重要である。
 オサムシ科の甲虫であるツヤヒラタゴミムシ属は,飛翔能力の退化が生じたグループの一つである。本属は飛翔に関わる形態形質の多型をもつことが知られており,飛翔能力が退化する途上にあると考えられ,上記の仮説を検討する上で優れた材料である。本研究では,本属の移動能力に関する形質進化が,集団間の遺伝的分化にもたらす影響を明らかにすることを目的として,形質進化プロセスと,形質進化と遺伝的分化の関係を検討した。
 研究には,日本列島の98地点から収集した22種621個体を用いた。ミトコンドリアのCOI領域784bpと,核の28S領域1075bpを用いて分子系統解析を行い,系統樹を構築した。系統樹をもとに,移動能力に関わる形質進化と遺伝的分化の関係性について,系統一般化最小二乗法による解析を行ったところ,本属では相対後翅長の減少に伴い,種内における,集団間の遺伝的分化が促進されてきたことが明らかになった。このことは,飛翔能力の退化の途上段階においても,異所的種分化が促進される可能性があることを示唆する。


日本生態学会