| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-332  (Poster presentation)

外来種マダラコウラナメクジの定着が生態系へ与える影響 : 生息環境と食性に着目して【A】【B】【E】
Effects of an exotic slug Limax maximus : Implications from its habitat characteristics and feeding habits【A】【B】【E】

*小松航(筑波大学), 池澤広美(茨城県自然博物館), 佐伯いく代(筑波大学)
*Wataru KOMATSU(University of Tsukuba), Hiromi IKEZAWA(Ibaraki Nature Museum), Ikuyo SAEKI(University of Tsukuba)

 マダラコウラナメクジ(Limax maximus L.)は、ヨーロッパ原産の大型ナメクジで、世界各地に侵入し分布を拡大している外来種である。本研究では、日本に移入したマダラコウラナメクジの生息環境と食性の特徴を明らかにし、生態系への影響を考察することを目的とした。生息環境については、茨城県南部の21地点において探索調査を実施した。この調査では1地点あたり1haの調査区域を設定し、一定の調査努力量で探索を行った後、発見した陸産貝類の種名と数を記録した。次に、探索調査の箇所を含む23地点にビールトラップを設置し、設置から48時間後に回収して捕獲個体の種名と個体数を記録した。さらに、マダラコウラナメクジの餌資源の推定のために、本種と餌資源候補生物を含む306サンプルを採集し、安定同位体分析を実施した。探索調査の結果、マダラコウラナメクジは森林や農地の割合の高い里山から市街地の多い都市域まで幅広く生息できるジェネラリストであることが明らかにされた。他の陸産貝類は特定の環境に分布が偏るものが多かったが、マダラコウラナメクジは生息環境の幅が広いために、多くの種と生息地が重複するポテンシャルを有していると推察された。さらに、マダラコウラナメクジが侵入した地点は、非侵入地点に比べ、陸産貝類のベータ多様性が低い傾向がみられた。ビールトラップ調査では、マダラコウラナメクジとチャコウラナメクジの捕獲数には負の関係が見られ、競合が起こっている可能性が示唆された。安定同位体分析からは、マダラコウラナメクジはキノコを中心とする雑食性であり、幅広い食性をもつことが明らかにされた。これらを総合すると、マダラコウラナメクジは生息環境、食性ともにジェネラリストであり、さらなる分布拡大によって、他の陸産貝類と生息地や餌資源が競合する可能性がある。今後は、キノコ栽培など農業分野での注意喚起や、分布情報の収集と共有が不可欠であると考えられる。


日本生態学会