| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-338  (Poster presentation)

伊豆大島における外来草食獣キョンの食性と常緑植物に対する選択性【A】
Feeding habits and selectivity for evergreen plants of invasive species Reeves's muntjac (Muntiacus reevesi) in Izu-Oshima island【A】

*越智郁也(筑波大学), 上條隆志(筑波大学), 尾澤進二(東京都大島支庁), 中嶋美緒(筑波大学)
*Ikuya OCHI(Tsukuba Univ), Takashi KAMIJO(Tsukuba Univ), Shinji OZAWA(Oshima Island Branch Office), Mio NAKAJIMA(Tsukuba Univ)

伊豆大島では特定外来生物に指定されているキョンに対して根絶を目指した防除事業が行われている.キョンが東京都の絶滅危惧種となっている植物を採餌していることは報告されているが,伊豆大島のキョンの食性に関して選択性を定量的に扱った研究事例がなく,食性の実態は明らかになっていない.そこで本研究では,伊豆大島のキョンの食性と常緑植物に対する選択性,特に希少種に関する評価を行った.東京都の防除事業によって,2021年8月から2022年11月の期間に伊豆大島で捕獲されたキョン42個体の胃内容物を回収し,胃内容物分析を実施した.統計解析にはキョンの胃内容物データとして,2019年9月から2020年7月までに捕獲された43個体の胃内容物データも加えた.伊豆大島の北東部,南東部および南西部のキョン防除柵内外おいて下層の常緑植物種(1m以下)とその量を把握するため,ライントランセクト法を用いた植生調査を行った.ライン上に占める長さ(以下,占有長)を各種の占有度合の指標とした.選択性の評価のため胃内容物中の占有率,下層の常緑植物種の占有長を用いてイブレフの選択指数を算出した.胃内容物に対する解析の結果,植物の葉と支持器官が主要な食物資源であった一方で,花や種実なども採食していた.常緑植物内ではカクレミノなど特定の種に対する選択性がみられた.植生調査に対する解析の結果,北東部,南西部の柵外では種数,多様度指数が低下しており,各種の占有長を応答変数としたGLMM解析では柵外で係数が有意に正,負の値を示した種がみられた.胃内容物中から東京都の絶滅危惧種に指定されている植物が検出され,柵外ではほとんど確認できなかったシュスラン属に対して強い選択性がみられたことから,植生保護柵の設置が急務だと考えられる.


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