| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-348  (Poster presentation)

住民と訪問者の運転速度に関わる心理的経路の違い:西表島でのロードキル低減に向けて【A】【B】
Psychological Pathways Related to Driving Speed Differ between Residents and Visitors: A Case to Reduce Roadkill on Iriomote Island【A】【B】

*井村彩恵子(東京農工大学), 赤坂宗光(東京農工大学), 鈴木愛(立命館大学, 東京都立大学, 京都大学)
*Saeko IMURA(TAT), Munemitsu AKASAKA(TAT), Ai SUZUKI(Ritsumeikan Univ., Tokyo Metropolitan Univ., Kyoto Univ.)

生物多様性保全において、脅威の度合いは人間の行動に依存している。そのため、保全のためには人間の行動変容を促す必要があり、行動に関わる心理的経路の理解の深化はその基盤である。これまで、国籍や文化が異なる人々の間では行動変容のためのアプローチに対する反応が異なる可能性が示唆されている。しかし、保護地域での管理に必要となるような同一国内での訪問者と住民といった比較的小さな属性の違いにより行動に関わる心理的経路が異なるかは明らかでない。
全島が国立公園に指定されている西表島では、イリオモテヤマネコをはじめとした野生動物へのロードキルが生物多様性に深刻な影響を及ぼしている。そこで本研究では、西表島の住民と訪問者を対象にアンケート調査を実施し運転速度の抑制に関わる心理的経路を比較した。アンケートの作成では、行動を良く説明できるとされている計画的行動理論と規範活性化理論をベースとし、近年環境行動に影響を与える要因として注目が高まっている過去の経験と愛着を追加した統合モデルを構築した。その後適合度に基づき、住民と訪問者でそれぞれ適切なモデルを検証した。解析には構造方程式モデルを使用した。
結果、住民と訪問者では運転速度の抑制に関わる心理的経路が大きく異なることが示された。住民では規範などの理性的な情報が行動を促進するのに対し、訪問者では愛着などの感情的な情報が行動を促進していた。
このような違いは、住民と訪問者の問題に対する関わり方や認識の違いによりもたらされていると考えられる。本研究の結果より、行動変容のためのアプローチの際には、各対象に適した情報に基づいた手法を選択することが有用であることが示唆された。


日本生態学会