| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-349  (Poster presentation)

倒流木設置に伴う水生生物の変化【A】
Changes in the aquatic organisms associated with coarse woody debris installation【A】

*吉永胡桃, 南佳典(玉川大学大学院)
*Kurumi YOSHINAGA, Yoshinori MINAMI(Grad School, Tamagawa Univ.)

 倒流木は河川地形を変化させて水生生物の生息環境を提供するため,河川生態系を保全する上で重要な構造物である.日本では倒流木を人工的に設置した研究は少なく,議論は不十分である.そこで,本研究では倒流木が発生した場合を仮定して人工的に倒流木を設置し,物理的および生物的な観点から河川への影響を検証した.
 北海道東部を流れる釧路川の一支流に倒流木を設置した流木区を3区と,倒流木を設置しない対照区を1区設け,流木区に設置する倒流木は異なるサイズのものを用意した.調査は物理的環境(流速,水深,底質)および生物的要素(底生動物,魚類)について行い,倒流木を設置する前に1回,設置後に3回の調査を行った.
 倒流木の設置後,流木区では流速が緩やかになり,淵の形成が確認された.また,倒流木に近い地点でPOM(粒状有機物)が滞留していた.底生動物は一部の限られた種が多く出現し,それまであまり見られなかった甲虫類も確認された.また,魚類は流木区で多く観察された.
 倒流木を設置することで水流が遮られて淵が形成された.また,POMは倒流木によって滞留し,その捕捉効果は倒流木に近い位置に限られることが認められた.サイズの大きい倒流木は淵形成能力が高かったが,小さい倒流木はPOMをよく捕捉することで淵が大きくなった可能性がある.倒流木によってできたカバーや淵は,サケ科魚類の隠れ場所や採餌場として好適な環境であり,流木区で多く出現した要因である.また,POMが増加することでPOMを餌資源または隠れ場とする特定の底生動物の増加に貢献し,増加した底生動物を魚類が餌資源としている可能性がある.これらの変化は倒流木を設置してからわずか1年程度で起こり,比較的短い期間で河川生態系に影響を与えることが認められた.今後はこのような倒流木のもたらす環境への影響の複雑性を考慮して,自然倒流木を維持する,または人工的に設置するといった視点が重要である.


日本生態学会