| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-358  (Poster presentation)

血液を用いてヒグマの年齢を推定する ~DNAメチル化率を指標として~【A】【B】
Establishment of a Novel Age Estimation Method Based on Methylation Rates of Blood DNA in Captive and Wild Brown Bears【A】【B】

*中村汐里(北大・獣医・野生動物), 山﨑淳平(北大・獣医・動物病院), 松本直也(のぼりべつクマ牧場), 伊藤英之(京都市動物園, 京都大・野生研), 村山美穂(京都大・野生研), 斉惠元(京都大・野生研), 木下こづえ(京都大・野生研), 山中正実(知床財団), 栁川洋二郎(北大・獣医・繁殖), 佐鹿万里子(北大・獣医・野生動物), 坪田敏男(北大・獣医・野生動物), 下鶴倫人(北大・獣医・野生動物)
*Shiori NAKAMURA(Hokkaido Univ. Wildlife), Junpei YAMAZAKI(Hokkaido Univ. Animal Hospital), Naoya MATSUMOTO(Noboribetsu Bear Park), Hideyuki ITO(Kyoto City Zoo, WRC, Kyoto Univ.), Miho MURAYAMA(WRC, Kyoto Univ.), Huiyuan QI(WRC, Kyoto Univ.), Kodzue KINOSHITA(WRC, Kyoto Univ.), Masami YAMANAKA(Shiretoko Nature Foundation), Yojiro YANAGAWA(Hokkaido Univ. Theriogenology), Mariko SASHIKA(Hokkaido Univ. Wildlife), Toshio TSUBOTA(Hokkaido Univ. Wildlife), Michito SHIMOZURU(Hokkaido Univ. Wildlife)

 従来、クマ類の年齢推定には、歯根部のセメント層に形成される層を数える方法が主に用いられてきた。しかし、この手法は、歯を抜く必要があるため動物への侵襲性が高く、高齢個体になるほど正確な推定が難しくなるといった欠点を有する。近年、DNA修飾機構の一つであるDNAメチル化の度合いが加齢に伴い変化するDNA領域があることが発見され、年齢推定の指標となることがヒトをはじめとした様々な動物種で報告されている。
 本研究は、ヒグマの血液由来DNAを用いて、メチル化率を指標とした新規年齢推定法を確立することを目的とした。年齢が明らかであるエゾヒグマを対象として、のぼりべつクマ牧場で飼育されている2~34歳の飼育個体34個体と、知床半島で生体捕獲した0~26歳の野生個体15個体より血液を収集した。各個体の血液より抽出したDNAをBisulfite処理した後、解析対象とした12のDNA領域をPCR法で増幅し、パイロシークエンス法でメチル化率を解析した。得られた値をもとに、単回帰、重回帰の一種であるElastic Netおよびサポートベクター回帰(SVR)を利用した3つの年齢推定モデルを確立した。この結果、SLC12A5遺伝子の近傍に位置する領域において年齢とDNAメチル化率が特に強く相関しており、この領域のメチル化率を用いたSVRモデルが最も高い精度となった(平均絶対誤差:1.3年)。
 本研究により、クマ類においてDNAメチル化率を指標とする年齢推定法が初めて確立された。この手法は性別にかかわらず高精度であり、さらに血液を用いるため侵襲性が低いこと、また、短時間での測定が可能で熟練した技術が不要である点で、歯を用いた推定法よりも有用である。さらに、本年齢推定モデルを活用することによって、クマ類の生態学的研究や保全・管理に貢献すると考えられる。


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