| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-362  (Poster presentation)

自然教育・レジャー活動における希少種の役割:全国の公有緑地を対象とした大規模調査【A】【B】【E】
The value of rare species in nature-based educational and recreational activities: a nation-wide analysis【A】【B】【E】

*玉利瑞欣(東京大学), 角谷拓(国立環境研究所), 高川晋一(日本自然保護協会), 曽我昌史(東京大学)
*Mizuki TAMARI(Tokyo Univ), Taku KADOYA(NIES), Shiichi TAKAGAWA(NACS-J), Masashi SOGA(Tokyo Univ)

近年、生物多様性と生態系サービスの関係に関する議論が盛んになされている。実際に、送粉サービスをはじめとしたいくつの生態系サービスの供給量は生物多様性と密接に関連することが報告されている。しかし、生物多様性と文化的サービス(非物質的な便益)の関係には不明な点が多い。そこで本研究では、主要な文化的サービスおよび生物多様性の構成要素の一つである「自然教育・レジャー活動」と「希少種」に注目し、公有緑地に両者の関係性を明らかにすることを目的とした。
本研究は、2019~2020年に全国の公有施設を対象に行ったアンケート調査のデータを用いた。本アンケートでは、希少種の生育状況や公園内に実施されている活動状況などの様々な要因を聞き取ったが、今回の研究ではこのうち(1)緑地内の希少種の生育状況、(2)緑地内の保全活動の取り組み(生物多様性を重んじるエリアの設置と希少種の保全活動)、(2)緑地で実施されている自然教育・レジャー活動(シンポジウムなどの普及活動、観察会などの野外活動と環境教育及びその支援活動)に関するデータを使用した。アンケート調査で得られたデータの他に、各公有緑地周辺の住宅地面積をGISにより計算し、解析に用いた。解析では一般化線形モデルを行い、各自然活動・レジャー活動に影響する要因を調べた。
解析の結果、希少種が生育している緑地では、より多くに自然・レジャー活動を行っていることが示された。また、野外活動や観察会は、希少種がいるだけではなく、生物多様性を重んじるエリアが設置されている緑地で実施されやすいことも分かった。一方で、緑地周囲の住宅地面積はレジャー活動との間に明確な関係性は見られなかった。以上の結果は、公有緑地における希少種の保全を目的とした保全活動が、文化的サービス(自然教育・レジャー活動)の供給に重要な影響を与え得ることを示唆している。


日本生態学会