| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-390  (Poster presentation)

抜き取りによる湿原植生管理の検討【A】
Examination of wetland vegetation management with selective weeding【A】

*久保田憲(鳥取大学・院・農), 濱本音(鳥取大学・農), 永松大(鳥取大学・農)
*Ken KUBOTA(Tottori Univ. Ma.), Oto HAMAMOTO(Tottori Univ.), Dai NAGAMATSU(Tottori Univ.)

鳥取県岩美町に位置する唐川湿原は、「唐川湿原カキツバタ群落」として1944年3月に国の天然記念物に指定され保護管理が行われている。しかし近年、湿原内を流れる水路の深掘れや、周辺樹林の発達、外来植物の侵入、シカによる食害などにより湿原植生の劣化が懸念されている。そこで本研究では、湿原植生の現状と季節変化を明らかにするとともに、以前の報告書により提言されていた選択的抜き取りによる植生管理の検討を行った。2022年5月に、湿原内の4つの植生タイプ(ヒメシダ-ヌマトラノオ群落、カサスゲ群落、トダシバ群落、ススキ-ネザサ群落)に計14個の調査プロットを設定した。各プロットに3つの調査区(1m×1m):カキツバタの開花前に抜き取りを行うPre区、カキツバタの花期終了後に抜き取りを行うPost区、抜き取りを行わないCont区、を設置した。抜き取り時期は、Pre区で5月16-23日、Post区で6月23-7月3日とした。抜き取り対象植物は、草丈がカキツバタより高いカサスゲ、ススキ、トダシバ、ツルヨシ、ネザサとした。各プロットで5、6、8、10月に植生調査を行い、各植生タイプの季節変化と抜き取りの効果を検証した。植物群落の階層は上層・下層に分け、Braun‐Blanquet法により、植被率と植物種ごとの被度・群度を記録した。また、上層の植物高を植物種ごとに計測した。カキツバタは開花前の5月時点で、サワオグルマを除く他の植物よりも植物高が高かった。サワオグルマは湿原内に点在するのみで、カキツバタへの影響は小さかった。カキツバタの花期終了後の6月になると、カサスゲ、ススキ、トダシバの植物高がカキツバタの植物高を上回った。このことから、光環境において、開花まではカキツバタが他の植物より優位だが、花期終了後は他の植物に被圧されることが明らかとなった。抜き取りをしたPre区・Post区と無処理のCont区の被度・植物高間にはいずれも統計的有意差を得られず、抜き取りの効果は認められなかった。


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