| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-392  (Poster presentation)

トキの順応的な生息地管理に向けた認証水田の新たな取り組みとその効果【A】
New initiatives and benefits in certified rice paddies for adaptive habitat management of crested ibis【A】

*星野黎衣(新潟大学・院・自然), 岸浩史(新潟大学・理), 武藤光紀(新潟大学・理), 髙橋将平(新潟大学・農), 冨田健斗(新潟大学・院・自然), 立石幸輝(新潟大学・院・自然), 鎌田泰斗(新潟大学・農), 関島恒夫(新潟大学・農)
*Rei HOSHINO(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ.), Hirohumi KISHI(Niigata Univ. Sci.), Kouki MUTOU(Niigata Univ. Sci.), Syouhei TAKAHASHI(Niigata Univ. Agri.), Kento TOMITA(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ.), Kouki TATEISHI(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ.), Taito KAMATA(Niigata Univ. Agri.), Tuneo SEKIZIMA(Niigata Univ. Agri.)

新潟県佐渡島では、2008年以降、野生絶滅したトキの再導入が進められており、それに併せて、トキの餌場創出と米の高付加価値を目的に、佐渡市は「生きものを育む農法」を要件とした「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度を実施してきた。本制度において「生き物を育む農法」の一つとして推奨されている冬期湛水には、現在、制度発足当初から実施されている全面湛水を行う冬期湛水(国冬水田んぼ)と、後年になり実施されるようになった、わだちに水を張る程度の浅い冬水田んぼ(市冬水田んぼ)の2タイプの冬期湛水が認証要件として認められている。本研究では、冬期湛水が餌生物の種多様性および生物量に与える影響を明らかにした上で、生物多様性保全とトキの餌場利用の観点からより効果の大きい冬期湛水処理法を見いだすことを目的として、冬期湛水を実施しない慣行水田(対象区)と非耕起水田を合わせた3つの冬期湛水処理水田間の比較を行った。PRC解析の結果、いずれの冬期湛水処理田においても、冬期湛水期に明瞭な群集組成の違いが認められなかった一方、その後の灌漑期において、冬期湛水田特有の生物群集が形成されることが明らかとなった。また、NMDS解析の結果、土壌硬度などの水田物理環境が、灌漑期における冬期湛水処理水田特有の群集構造の形成に影響していることが明らかとなった。生物量についても、多くの水生生物種において、冬期湛水期には対象区といずれの冬期湛水処理水田の間に明瞭な差異が認められなかった一方、その後の灌漑期において、対象区に比べ冬期湛水処理田において出現数が多い傾向が認められた。以上の結果から、冬期湛水の実施により、土壌の軟化といった土壌物理環境に変化が生じ、それが土壌微生物相の形成に影響を与え、生物間相互作用を通して栄養段階上位の生物に作用することで、時間的に遅れを伴った冬期湛水処理田特有の生物群集形成に繋がった可能がある。


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