| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-008  (Poster presentation)

本土で採集される南方系寄生バチMelittobia sosuiの起源
The origin of Japanese mainland populations in the southern parasitoid wasp species Melittobia sosui

*安部淳(神奈川大学, 明治学院大学), 土田浩治(岐阜大学)
*Jun ABE(Kanagawa University, Meijigakuin University), Koji TSUCHIDA(Gifu University)

地球温暖化にともない生物の分布が北方に拡大していることが、様々な種で報告されている。Melittobiaは単独性狩りバチやハナバチの寄生バチであるが、その中の一種M. sosuiは、これまで沖縄本島、石垣島、台湾からのみ報告がある。しかし、我々の調査では、2008年に静岡県で採集が確認され、その後の神奈川県での調査でも定期的に採集されている。これらの本土で採集されるM. sosuiも南方から分布を拡大してきたのか。本土個体群の起源を探るため、マイクロサテライトDNAマーカーを開発し、それらを用いて地理的遺伝構造を解析した。
 2008年以降に西表島、石垣島、沖縄本島、静岡、神奈川で採集された個体を解析に用いた。次世代シークエンサーを用いてマイクロサテライトDNAマーカーを開発したところ、56遺伝子座で多型が確認され、それらを以下の解析に用いた。STRUCTURE解析を行ったところ、最適なクラスター数はK = 2と計算され、西表島、石垣島、沖縄本島の琉球グループと静岡、神奈川の本州グループで異なるクラスターを形成した。次に、divMigrate-onlineを用いて、個体群間の移動の方向性を推定したところ、それぞれのグループ内での有意な移動は確認されたが、琉球と本州グループ間での移動は支持されなかった。さらに、固有対立遺伝子を解析したところ、複数の遺伝子座で琉球グループ内、もしくは本州グループ内でのみ見られる対立遺伝子が多く存在することを確認した。以上の結果は、本州個体群の起源は、琉球諸島ではないことを示唆する。これまで本属の調査がほとんど行われていないアジア大陸などが新たな候補として考えられる。さらに、本結果は南方系の種が北方で採集されても、その起源が南方であると結論するには詳細な検討が必要であることを示している。


日本生態学会