| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-022  (Poster presentation)

渡り鳥の観察から環境変化への応答を推定する
Responses to environmental changes of migratory birds estimating from observations

*宮本竜也, 近藤倫生(東北大学)
*Tatsuya MIYAMOTO, Michio KONDOH(Tohoku Univ.)

生物の分布に影響する温度や植生、餌資源の存在といった環境要因は気候に依存する。したがって急速な気候変化は生物の分布やフェノロジーに大きな影響を及ぼすと予想される。実際に分布の北上や出現時期の長期化が様々な分類群で報告されてきた。一方で、気候変化は全球スケールから地域特異的なものまで様々なスケールの変化を含み、長距離を移動する生物群ではどの気候変化が行動の変化をもたらしたのかを説明することが難しい。渡り鳥では長期にわたる観察から春の渡来の早まりや秋の渡去の遅延が報告されてきた。渡り鳥は長距離移動により繁殖地・中継地・越冬地とそれぞれに異なる空間を利用するため、複数の地域の気候変化が影響する可能性がある。本研究では、東日本の2地域、仙台と東京で10年間にわたって行われた鳥の観察記録を用い、鳥の初認・終認日に広域・地域スケールの気候と各種の渡りの分類(渡り距離・分布)の違いが与える影響を調べる解析を行った。その結果、渡り時期の変化には気候が関わっており、初認と終認は異なる気候によって説明されることがわかった。具体的には、春の初認は年を経るにつれて早まっており、逆に終認は年ともに遅くなっていた。これに影響する気候要因を調べると、初認では広域の気候の効果が、終認では地域的な気温の効果が大きかった。また、時期の変化は越冬地の分布によって説明される。初認への影響は渡り距離と越冬地の北限を変数として入れた時に予測性が高まり、越冬地の北限が最適モデルとして選択された。また、長距離の渡りを行う種ほど時期の変化が小さく、越冬地の北限については北に北限がある種ほど変化が大きかった。終認は渡り距離および分布の効果が認められなかった。渡り時期の変化は複数の地域の気候変化が駆動しており、鳥が利用する広い空間分布の考慮がフェノロジー変化の理解に重要であることが示唆された。


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