| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-034  (Poster presentation)

家魚化と学習機会の喪失によって回避行動は鈍化する【E】
Weakening of the avoidance behavior through domestication and lacking learning opportunity【E】

*長谷川功(水産資源研究所), 中江雅典(国立科学博物館), 宮本幸太(水産技術研究所)
*Koh HASEGAWA(Fish Res Inst), Masanori NAKAE(Nat Mus Nat Sci), Kouta MIYAMOTO(Fish Tech Inst)

天敵、競合個体からの攻撃、落下物等からの回避行動は、動物でごく当たり前にみられる。一方、継代飼育が進むと動物の感覚器官が退化することは、サケ科魚類サクラマスの感丘(側線の点々:水の動きを感じる器官)を対象とした著者らの先行研究(Nakae et al. 2022 Sci Rep 12: 16780)でも示された。そこで、本研究では、継代飼育に伴う回避行動の変化を調べるために、サクラマスを使って水槽内で行動観察を行った。供試魚の由来は、北海道尻別川水系産の野生魚(尾叉長41.5–53.6 mm)、同水系の継代飼育魚(同46.1–60.9 mm:14世代目)、およびF1魚(同43.5–61.0 mm:親は尻別川に遡上してきた個体)である。45 L水槽に遮蔽板を入れて作成した幅45 cm×奥行10 cm×水深20 cmの空間に供試魚を1個体入れ、落下物(φ55.0×90.3 mmの円柱を3本連ねたもの)に対する回避行動を評価した。落下物の視覚および側線感覚への作用を評価するため、明条件(野生魚n=24、継代飼育魚n=25、F1魚n=28)と暗条件(野生魚n=27、継代飼育魚n=30、F1魚n=28)で回避の成否を記録した。その結果、明条件ではいずれの由来の供試魚もほぼ回避に成功したが、暗条件では、野生魚(11%)、F1魚(32%)、継代飼育魚(60%)の順で回避失敗の割合が高くなった。その理由として、F1魚では、回避行動を学習する機会がないこと、継代飼育魚では、さらに感丘の感知機能の低下も考えられた。ただし、感丘数と回避の成否の間には関係がみられなかった。継代飼育魚は、感丘から脳にまで刺激が伝わる速度が劣るのかもしれないし、あるいは本実験では落下速度は一定であったが、速度を変えると感丘数の効果を検出できるのかもしれない。


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