| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-044  (Poster presentation)

ヤマトシリアゲの代替交尾戦術の地域間比較:西はスニーキング、東はサテライト?
Multi-regional comparison of alternative mating tactics in Japanese scorpionflies: sneaking in the west, satellites in the east?

*石原凌, 宮竹貴久(岡山大学)
*Ryo ISHIHARA, Takahisa MIYATAKE(Okayama Univ.)

日本に生息するヤマトシリアゲPanorpa japonicaは、婚姻贈呈用の餌を巡って雄同士が闘争する。発表者は、愛知個体群と岡山個体群で、雄間闘争に敗北した雄が選択する代替交尾戦術に差異が生じていることを発見した (Ishihara and Miyatake 2022)。本発表では、代替交尾戦術の変異がその他の地域でも存在するかを調査した結果と、代替交尾戦術の変異に影響を与えた要因について報告する。岡山南部、岡山中部、愛知、青森、鳥取東部、鳥取西部の6つの個体群で本種の交尾戦術を調査した結果、岡山中部個体群では岡山南部の個体群と同様に、長時間餌場付近で待機し、スニーキング戦術を行う個体がほとんどで、サテライト戦術を選択する個体は存在しなかった。一方、青森個体群では愛知個体群と同様に、数分以内に闘争場所から逃走する個体が多く、サテライトを行う個体が観察された。鳥取東部および鳥取西部の個体群では、多くの敗北雄が長時間餌場付近に待機してスニーキングを行うことが確認されたが、サテライトを選択する個体も少数観察された。生息個体数の推定および捕食者(肉食性節足動物)相を調査した結果、岡山個体群は愛知や青森よりも推定個体数が多く、確認された肉食性節足動物の個体数および種数は、愛知や青森の方が岡山に比べて多かった。これらの知見より、主にスニーキングを行う個体群が中国地方に存在し、愛知県以東に、逃走やサテライトを主に行う個体群が存在する可能性が示された。今後、調査する地域集団の数を増やして、代替交尾戦術の特性と生息環境との相互作用などをさらに調査することが必要と考えられる。


日本生態学会