| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-055  (Poster presentation)

モモスズメ(Marumba gaschkewitschii)幼虫の齢間で異なるカモフラージュ
Different camouflages among instars of Marumba gaschkewitschii caterpillars

*萩原絢子, 小山哲史(東京農工大学)
*Ayako HAGIWARA, Satoshi KOYAMA(Tokyo Univ. Agr. and Tech.)

鱗翅目幼虫について今まで多くの研究が行われてきたが、そのほとんどは老齢幼虫についてであり、初齢幼虫については殆ど研究されていない。鱗翅目スズメガ科の幼虫は、終齢幼虫で特に大型になり、若齢幼虫とは体サイズが大きく異なるため、異なる捕食防衛形質を持つ可能性がある。そこで、スズメガ科幼虫のうち、葉によくカモフラージュしていると考えられている(James et al., 2018)モモスズメ(Marumba gaschkewitschii)幼虫の、若齢と終齢でのカモフラージュについて調査した。行動観察では、若齢期は葉の側脈にとまっている傾向があり、終齢になるにつれて主脈に、頭部を葉の先端側に向けてとまる傾向が強くなった。色覚モデル(Vorobyev & Osorio, 1998)による解析では1齢幼虫は体色が葉の葉身よりも 葉脈に色が近く、写真を用いた形態計測では1齢幼虫は主脈より側脈に太さが近いことが示された。よって1齢幼虫は側脈に隠蔽していると考えられた。終齢幼虫では斜条と呼ばれる斜めの平行線模様があり、終齢幼虫が葉にとまっていた向きは葉の側脈と斜条の方向が同じ向きであった。色覚モデル解析から、終齢幼虫は斜条と斜条以外の部分の色(以下『地の色』)に分けられ、葉は葉脈と葉脈以外の部分の色(以下『葉身』)に分けられること、地の色と葉身の色、また斜条と葉脈の色が比較的近い色であることが示された。また、主成分分析の結果から、パターンの類似性も示された。これらのことから終齢幼虫は葉身と葉脈を含めた葉全体へのカモフラージュとなっている可能性が示された。また、終齢幼虫では同じ光環境で厳密に葉と同じ色を取らないこともあり、ウェーブレット変換と主成分分析による解析では形が丸まった葉に類似していた。野外実験では色の効果はあったものの枝上よりも近い色パターンの背景である葉上での方が有意に多く捕食された。よって、終齢幼虫では葉への隠蔽ではなく丸まった葉そのものへの仮装である可能性がある。


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