| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-059  (Poster presentation)

マダラスズの生活史に対する都市の夜間照明と交通騒音の複合効果
The combined effects of artificial light at night and anthropogenic noise on life history in ground crickets

*栗和田隆, 一川いずみ(鹿児島大学)
*Takashi KURIWADA, Izumi ICHIKAWA(Kagoshima Univ.)

開発によって野生生物は都市での生活を余儀なくされる。そのため、野生生物への都市環境の影響を調べた研究は多い。その中には、都市環境の単一の要因に着目してその影響を操作実験によって検証する手法が多く見られる。しかし、都市環境は複数の要因の総体であり、要因間の複合的な効果もあるだろう。また、都市環境へ適応進化した生物も存在するため、都市の個体と郊外の個体とで影響の強さが異なることも考えられる。本研究では、都市環境の中でも交通騒音と夜間の人工照明に着目した。これはこれらの要因が聴覚と視覚という別々の感覚に働きかける要因であるからだ。コオロギの一種マダラスズDianemobius nigrofasciatusを対象に、生存率や成長速度、休眠といった生活史形質への騒音と夜間照明の個別の影響及びその複合効果を検証した。その結果、生存率に関しては都市個体は騒音や夜間照明の有意な影響を受けず要因間の複合効果も有意ではなかった。一方、郊外の個体は単一の要因からは有意な影響を受けないものの騒音と夜間照明双方が存在すると生存率が低下することがわかった。次世代数に関しては都市と郊外個体間に違いは見られず、夜間照明と騒音双方があると減少した。また成長速度は都市と郊外の個体間で有意な違いはなく、騒音と夜間照明はそれぞれ単独で負の影響を及ぼした。本種は短日条件で休眠卵を産むが、夜間照明は休眠を妨げ、そこに騒音が加わるとさらに休眠率が低下した。これにも都市と郊外の個体間には差はなかった。つまり、生存に関しては騒音と夜間照明の複合効果が見られ、都市個体は両要因に適応していることが示唆された。また、日周期で休眠を決定する種であっても、夜間照明だけでなく騒音といった他の要因も相加的に影響することがわかった。本研究は都市環境の影響を調べる際には要因間の複合効果や個体の来歴まで考慮する必要があることを示す。


日本生態学会