| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-063  (Poster presentation)

高精度かつ迅速で昆虫精子に最適な精子生存判定法の確立
Establishment of the method for quick and precise measurements of insect sperm viability

*竹島実加, 後藤彩子(甲南大学)
*Mika TAKESHIMA, Ayako GOTOH(Konan Univ.)

 社会性昆虫であるアリ科の女王は、交尾後にオスから受け取った精子を、精子貯蔵器官である受精嚢に一定の間貯蔵し10年以上という長い期間、生きた状態で貯蔵するという極めて特殊な能力を持っている。このメカニズムを明らかにするためには、受精嚢内の環境を再現した培地で保存した精子の生存率を調べる必要があるが、それに先立ち、本研究では、正確で迅速な精子生存判定方法を確立することを目的とした。
 従来、昆虫の精子の生存判定には、生細胞と死細胞を蛍光試薬でそれぞれ染色し、蛍光顕微鏡で観察するという手法が用いられてきた。しかし、この手法では、アリの実際の精子生存率を正確に反映できないことが予備実験によりわかっている。これは、使用する染色液の濃度や染色時間が哺乳類の精子に最適化されており、精子の構造が哺乳類とは大きく異なる昆虫には適していないためと考えられる。しかし従来の手法では、生存判定に必要な数の精子の撮影に時間を要するため、時間経過に伴い精子が損傷し、生存率が低く算出されている可能性がある。
 まず、精子の染色方法を昆虫精子に最適化した。加熱して死んだ精子と生存している精子を一定の割合で混合した生存率既知サンプルを調製した。その後、細胞の生死判定によく用いられる蛍光染色試薬で染色し、生存率を正確に予測できる染色液の濃度と染色時間を決定した。さらに、染色後の精子のマウント方法を改良し、少ない撮影時間で生存判定に必要な数の精子を撮影することを可能にした。
 本研究で確立した精子生存率判定方法により、女王アリによる精子貯蔵メカニズムの研究だけでなく、昆虫の精子競争に関する研究や人工授精技術の開発にも役立つと考えている。


日本生態学会