| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-064  (Poster presentation)

安定同位体比分析を用いたツキノワグマの食性ニッチの検証
Dietary niche analysis of the Asian black bears using stable isotopes

*長沼知子(農研機構), 中下留美子(森林総合研究所), 小坂井千夏(農研機構), 小池伸介(東京農工大学), 山﨑晃司(東京農業大学)
*Tomoko NAGANUMA(NARO), Rumiko NAKASHITA(FFPRI), Chinatsu KOZAKAI(NARO), Shinsuke KOIKE(Tokyo Univ. Agr. and Tech.), Koji YAMAZAKI(Tokyo Univ. Agr.)

ツキノワグマ(以下、クマ)は森林性の雑食動物であり、植物質から動物質までの幅広い資源を季節依存的に利用する一方、個体群内での食性の多様度が大きいことが知られる。そのため、食物資源の季節性やその変動が食性ニッチに及ぼす影響は、個体群内でも異なると考えられるものの、詳細は明らかになっていない。
本研究では、2003~2020年の栃木県足尾・日光山地で学術捕獲された個体を対象に、体毛の炭素・窒素安定同位体比分析を行い、季節及び食物資源量の変動(ブナ科堅果の結実豊凶)が個体の食性に与える影響を明らかにすることを目的とした。クマの体毛は、初夏から秋の食性履歴を反映しながら伸長するため、細断して安定同位体比分析を行うことで、活動期の食性ニッチの推定を行った。解析には安定同位体ニッチモデルを使用し、同位体ニッチサイズを性齢クラスごとに算出し、夏と秋での違い、結実豊凶による違いを検証した。
その結果、個体群全体において、夏は秋よりも同位体ニッチのサイズが大きく、秋は堅果の豊作年よりも不作年のほうが、ニッチサイズが大きい傾向であることが示された。秋はクマが堅果に依存した食性になることから、食物資源の乏しい夏よりも個体間の食性の違いが小さくなると考えられる。そして、堅果が豊富であるほどその依存度が高まることで、豊作年は不作年よりニッチサイズが小さくなった可能性がある。また、性齢クラス間での比較においては、季節や性別に関係なく、年齢の若いクラスほど、同位体ニッチのサイズが大きくなっていることが示された。この要因としては、個体間競争や採食行動の個体学習などが考えられるものの、さらなる検証が必要であると考えられた。


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