| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-078  (Poster presentation)

ヤマトグサの個体群維持に対する夏季の上昇霧の影響
Influence of upslope fog in summer on the maintenance of Theligonum japonica populations.

*指村奈穂子(日本自然環境専門学校), 鈴木正樹(日本自然環境専門学校), 古本良(林木育種センター), 阿部晴恵(新潟大学佐渡センター)
*Naoko SASHIMURA(Japan Nature & Ecology College), Masaki SUZUKI(Japan Nature & Ecology College), Ryo FURUMOTO(Forest Tree Breeding Center), Harue ABE(Sado Center, Niigata Univ.)

ヤマトグサは、日本では秋田県から熊本県まで隔離分布しており、新潟県では佐渡島のみに分布する。また、7都府県で絶滅危惧種に指定されている。2021年に行った佐渡島内での分布調査から、夏に発生する上昇霧が本種の生育に影響していることが示されている。霧の影響をさらに調べるために、2022年に佐渡島において気象観測、栽培試験、袋掛け実験を行い、加えて日本国内生育地の気候条件を解析した。
気象観測としてインターバルカメラによる霧の発生観察と空中湿度測定を1年間(冬季は除く)行い、本種の分布との関係を検証したところ、上昇霧ができる場所だけでなく、川沿いや湿地の周囲の空中湿度が高い場所にも生育することがわかった。栽培試験において、密閉したケース内では、シュートの節から盛んに発根する様子が見られたが、蓋を開けたケース内では全く発根が見られなかった。このことから、本種は高湿度条件下では節からの根による水分吸収で長く伸ばしたシュートを維持し、栄養繁殖を行っていると考えられた。袋掛け実験では、わずかに自殖も行っていることが確認され、自然状態での結実率は19%のみであったことから、本種の個体群維持に種子繁殖はあまり重要でないと考えられた。日本国内のヤマトグサ生育地を、S-netの標本採集位置情報から地図化し、気候条件を用いてMaxEnt解析した。その結果、分布に寄与する気候要因は、日照時間と降水量であり、夏の日照時間が短いほど分布確率が高かったことから、夏季の霧で本種の分布が説明できることが示唆された。
これらから、本種は夏季に霧の出るところで栄養繁殖により個体群を維持しており、その周辺の河川沿いや湿地へも分布を広げられるが、生育に必要な霧の出る場所が限られるため、日本全国で隔離分布していると考えられる。今後は、本種の遺伝構造について明らかにし、隔離分布が生じた地史的背景についても検討していきたい。


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