| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-090  (Poster presentation)

河畔・湖畔で見いだされたミズタカモジの生育立地特性と適応戦略
Habitat traits of Elymus humidus (Poaceae) growing on riversides and lakeshores and its adaptive strategy.

*三村昌史(自然環境研究センター), 鈴木伸一(東京農業大学), 青木雅夫(群馬自然環境研究会)
*Masashi MIMURA(Japan Wildlife Res. Ctr.), Shin'ichi SUZUKI(Tokyo Univ. of Agri.), Masao AOKI(Gunma Nat.Env.of the Stu.Assoc)

 ミズタカモジは本州(福島以南)、四国、九州、韓国(Choi et al.,2021)に分布する冬型の多年草である。本種の生育立地は水田や休耕田とされるが(阪本,1978;長田,1993;茨木ほか,2016)、筆者らは関東地方の複数個所の湖畔・河畔のわんどにおいて見出した。

 そこで本研究では、湖畔・河畔における本種の生育立地特性・生態的適応を明らかにする目的で、2019~2022年にかけ多々良沼、元荒川、鬼怒川、渡良瀬川の自生地にて生育植分・隣接群落の植物社会学的植生調査を行い、群落の組成的特徴や植生配置の特性について検討した。

 その結果、生育植分はタウコギクラスのスズメノテッポウ-コカイタネツケバナ群落等に区分され、低水位期に生じた裸地のみでなく、ジャヤナギ-アカメヤナギ群集、ヨシ群落、アシカキ群落、クサヨシ群落等の夏季にオノエヤナギクラスないしヨシクラスの植物群落が成立する立地にまで配置することが明らかになった。生育植分は高水位期に常時冠水する立地であったが、より低比高側に分布するキタミソウ群集には本種はあまり随伴せず、高比高側の乾性立地に分布するオギ群集、アズマネザサ群落等には本種は認められなかった。また、秋季に出芽、節から栄養繁殖しロゼット状で越冬し、春季に開花・結実した後は夏眠する生態は湖畔・河畔においても変わりなく、Ohwi & Sakamoto(1964)が指摘した成熟後の花穂が最上の節から脱落する性質は、波浪や風等によって引き起こされ、水面を花穂が漂うことで種子散布に寄与している可能性が考えられた。

 以上のように、湖畔・河畔のわんど的環境に生じる冬季減水裸地から夏季に冠水する高茎草本群落・ヤナギ林群落の下層にかけて、本種は秋季~春季に一時的な植分を形成しており、生態・生活史の面からも季節的な水位変動への適応が示唆された。稲作伝播の歴史的背景を考慮すると、本種は代償適地として水田・休耕田へ拡散・適応したとも考えられ、本来の生育地はむしろ上記の立地である可能性がある。


日本生態学会