| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-091  (Poster presentation)

標高勾配に沿ったナツツバキ属2種の分布パターンとその制限要因【B】
Distribution patterns and range limit of two Stewartia species along an elevation gradient.【B】

*渡部俊太郎(鹿児島大学), 船津若菜(北海道大学), 武分亮洋(鹿児島大学), 相場慎一郎(北海道大学)
*Shuntaro WATANABE(Kagoshima Univ.), Wakana FUNATSU(Hokkaido Univ.), Akihiro TAKEBU(Kagoshima Univ.), Shin-ichiro AIBA(Hokkaido Univ.)

生物の分布パターンは歴史要因、環境要因、生物間相互作用等が複合的に作用した結果として形成される。このため、野外で観察されたパターンからその形成過程を類推することは、多くの場合難しい。この研究では同一の山地の中で共存する近縁樹木2種の垂直分布のパターンに着目し、その形成過程における環境要因と生物間相互作用の相対的な重要性を類推することを目指した。研究ではツバキ科ナツツバキ属のヒメシャラとナツツバキを対象とした。鹿児島県内における2種の在不在は山岳ごとに異なっており、両種が共存する山岳(霧島山系)、ヒメシャラのみが分布する山岳(屋久島)、ナツツバキのみが分布する山岳(高隈山系)がある。また、両種が共存する霧島山系では標高の比較的低い場所にヒメシャラが多くみられ、標高の高い場所ではナツツバキがみられる傾向が知られている。そこで本研究では、以下のような仮説をもとに標高に沿った2種の分布パターンを相互比較し、分布限界形成に果たす環境要因と生物間相互作用の役割を考察した。
1) もし生物間相互作用が環境要因よりも大きく2種の分布に影響しているならば、共存地における2種の垂直分布の重複の程度は、標高に沿って変化する環境要因の重複の程度よりも狭くなる。
2) もし生物間相互作用が環境要因よりも大きく2種の分布に影響しているならば、それぞれの種が単独で生育している山岳は共存している山岳よりも分布する標高帯が広くなる。
3) 生物間相互作用の影響は共存地において2種の垂直分布が接触する方向で特に強く生ずると考えられる。このため、単独生育地のヒメシャラは共存地のヒメシャラよりも標高が高く寒冷な場所まで分布し、単独生育地のナツツバキは共存地のナツツバキよりも標高が低く温暖な場所まで分布する。


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