| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-118  (Poster presentation)

繁殖が影響するブナの枝における可溶性糖分組成の季節変動
Seasonal patterns of sugar components and their functions in branches of Fagus crenata in association with three reproduction events.

*壁谷大介, 韓慶民(森林総研)
*Daisuke KABEYA, Qingmin HAN(FFPRI)

可溶性糖分は様々な機能を有しており、時々の生理プロセスや繁殖などの生活史イベントに応じて量的な変動が生じるばかりでなく、糖によっては器官毎に機能が異なる場合もありうる。それ故、可溶性糖分の成分毎に変動パタンを評価することは、可溶性糖分の機能に対する理解を深めるために重要となる。本研究では、可溶性糖分の個々の機能および糖の組成に対する繁殖の影響を評価するために、3回の繁殖イベントを含む7年間にわたりブナの当年枝および越年枝(1~3年枝)の可溶性糖分の組成の季節変化を追跡した。
その結果、当年枝、越年枝のいずれにおいても、よく知られている可溶性糖分(スクロース、グルコース、フルクトース)の季節変化が観測されたことに加えて、生育シーズン終期には他の樹種でも耐凍性に関与すると考えられているラフィノースが高い濃度で検出された。また、細胞成長に深く関わることが知られているミオイノシトールは主に生育シーズン初期に検出され、当年枝・越年枝のいずれにおいても大きな年変動がみられた。さらにミオイノシトール濃度にのみ繁殖による影響が明確にみられ、当年枝では繁殖個体のミオイノシトール濃度が非繁殖個体よりも低下していた。この結果は、先行研究で確認されていた繁殖個体における当年枝成長の抑制と合致する。本研究においては、生理的なプロセスや環境応答に対する可溶性糖分の役割を評価する場合において、可溶性糖分濃度をまとめて定量するのではなく組成毎に評価することの重要性を示した。


日本生態学会