| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-124  (Poster presentation)

マングローブ植物の地上根通気組織と窒素固定
Nitrogen diffusion and diazotrophic fixation through mangrove aerial roots

*井上智美(国環研), 高津文人(国環研), 赤路康朗(国環研), 下野綾子(東邦大学)
*Tomomi INOUE(NIES), Ayato KHOZU(NIES), Yasuaki AKAJI(NIES), Ayako SHIMONO(Toho University)

干潟は、潮汐によってリターが海域へ流出するため、窒素不足に陥りやすい。このような場所で生育するマングローブ植物の窒素獲得機構の詳細は明らかにされてこなかった。本課題で、マングローブ植物の根近傍に特有の窒素固定バクテリア叢が発達し、高い窒素固定活性が維持されていることが明らかとなり、マングローブ植物と窒素固定バクテリアとの間に共生関係があることが推察された。一方で、満潮時に冠水する干潟土壌では、窒素拡散速度が水中を介することで極端に制限されることから、「窒素固定バクテリアへの窒素供給経路は何処なのか?」という問いが生まれた。そこでマングローブ植物に特徴的な地上根に着目した検証実験を行った。地上根の内部はスポンジ状の空隙(通気組織)になっており、大気と土中を気相で繋ぐ構造をしている。ヒルギ科とクマツヅラ科のマングローブ植物について、大気→通気組織→土中の根組織への窒素の流れを、安定同位体窒素を用いて追跡したところ、通気組織を通じて地下部へ拡散した大気由来の窒素が、根の組織間隙や表皮近傍に存在する窒素固定バクテリアに固定されていることが明らかとなった。湿地植物に見られる根の通気組織は、酸素欠乏で誘導形成することから、嫌気土壌に適応した「酸素供給システム」であると考えられているが、空気のおよそ8割が窒素ガスであり、「窒素供給システム」としても機能し得る。ヒルギ科ヤエヤマヒルギの当年生実生を用いた栽培実験を行ったところ、低窒素処理下で根の空隙率が増加することが明らかとなった。さらに、野外に生育するヤエヤマヒルギ成木の根の空隙率は、土壌水中のアンモニア濃度と負の関係があった。マングローブ植物にとって地上根と通気組織は、窒素不足になりやすい干潟環境への適応的な形質でもあるのかもしれない。


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