| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-126  (Poster presentation)

枝先の吸水に着目した多雪地広葉樹の展葉メカニズム
The mechanism of leaf flush in heavy snow region: absorption of water in the branchlets

*庄司森, 吉村謙一(山形大学)
*Shin SHOJI, Kenichi YOSHIMURA(Yamagata Univ.)

地球温暖化による春先の融雪早期化は樹木の展葉時期を早める。多雪地での樹木展葉の仕組みを明らかにすることは、融雪早期化が樹木展葉やその後の物質生産にどのような効果とリスクをもたらすのかを提示するために重要である。しかし、樹木展葉の仕組みについて、残雪の影響により枝先と地下部の春先の温度上昇開始がずれることを加味した上で生理学的に解明する研究は少ない。樹木は残雪環境下で冷却された土壌からの水分の取り込みが制限される状態にあるにも関わらず、枝先では展葉に向けた冬芽への吸水を開始している。従って、冬芽で細胞の吸水成長に適した水分利用の特性を持つことで芽吹き・葉面積拡大を行っている可能性がある。キャパシタンス:Cは、水ポテンシャルの変化に対する組織の含水量の変化で表現され、細胞吸水を促す指標として用いられる。そこで本研究では、残雪環境で樹木内の水分を、冬芽で吸水し展葉すると仮説を立て、芽吹き時に枝先のCが変化することに着目した展葉の仕組みの解明を目的とした。春先に山形県内の月山にてブナとミズナラについて樹木の展葉観察・環境計測(積雪深/土・気温)をし、枝先の展葉までの含水比変化とPV曲線法によって冬芽・未成熟葉の吸水成長のメカニズムを調べた。ここで得られるPV曲線とは、実験により小枝を含めた冬芽の水分量と水ポテンシャルを算出し、その関係性を表すものである。これにより冬芽への水分の流出入特性について、春先の温度変化に対する応答の有無を確認できる。結果より、冬芽の吸水は3月下旬から4月初旬に地温上昇より先に起き、その際冬芽のCが大きくなることでわずかな水ポテンシャルの変化で水分が流出入しやすくなることがわかった。また冬芽において弾性係数を展葉までに小さくすることで、春先に残雪の中、冬芽を変形させやすく吸水性に富ませ芽や葉を成長させていることが示唆された。


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