| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-166  (Poster presentation)

温帯山地の標高傾度に沿った菌根菌糸の呼吸と生産の変化
Elevational change in mycorrhizal mycelium production and respiration in central Japan

*寺井水萌(東京農業大学), 小南裕志(森林総合研究所), 今井伸夫(東京農業大学)
*Minamo TERAI(Tokyo Univ. of agric), Yuji KOMINAMI(FFPRI), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. of agric)

植物細根と共生する菌根菌の生産・呼吸は、森林炭素動態の主要経路の一つである。菌根菌糸の炭素利用効率(carbon-use efficiency:CUE=生産/生産+呼吸)は、菌糸バイオマスとして固定された炭素と呼吸として放出される炭素の比率で、菌根菌を介した炭素の貯留や動態の理解の上で重要である。これまで様々な森林で菌根菌糸の生産や呼吸が調べられてきたが、生産・呼吸を同時測定しCUEを算出した研究はほとんどない。また、標高傾度に沿って菌根菌糸の生産、呼吸、CUEを調べた例はない。標高傾度での研究は、緯度傾度ではしばしば変化し、解釈を難しくする地史、気候、地質の影響を最小化しつつ、菌糸炭素動態に及ぼす温度の影響を明らかにできる。
 日本の温帯山地では、一般に標高上昇に伴って常緑広葉、落葉広葉、常緑針葉樹林へと変化する。そこで本研究は、静岡県伊豆半島から山梨県北岳にかけて、標高約150(スダジイ、イチイガシ)、400(ウラジロガシ、アカガシ)、1150(ブナ)、2200m(シラビソ、トウヒ)の4標高の極相林に生育する優占種計7種の樹冠下において、菌根菌糸の生産、呼吸、CUEを調べた。菌糸のみを培養できるコアを、計138個設置した。コア周辺土壌全体を、有機物をほぼ含まない真砂土に置換し腐生菌糸のコンタミを抑えた。コアは春-初夏に設置し、約2-4か月後に掘り取った。この際、現地にて速やかにコアからのCO2放出速度を測定した。その後、研究室にてコア内の菌糸を抽出し、菌糸長の測定から菌糸バイオマスとCUEを算出した。
 菌根菌糸生産は、標高400mと1150mで高い一山型を示し、2200mで最低を示した。CUEは、2200mで最低を示し、他の3標高は同じくらい高かった。亜高山性針葉樹林(標高2200m)における菌根菌は、その冷涼な気候のために、菌糸の生産や維持のために他の森林よりも多くの炭素を呼吸として利用していることを示していると考えられた。


日本生態学会