| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-192  (Poster presentation)

真社会性動物におけるスペシャリスト・ジェネラリスト割当の最適戦略【B】【E】
Optimal allocation of specialists-generalists within a colony in social animals【B】【E】

*Koichi ITO(Hokkaido Univ.), Andrew D HIGGINSON(Univ. of Exeter)

真社会性動物では、繁殖に特化したカーストが形成されることが一つの特徴であるが、繁殖以外を担当する不妊のカースト内においてもしばしばサイズや形態に大きな個体差がみられる。従来、こうした個体差は特定の業務に対して特化したある種の「スペシャリスト」であると考えられてきたが、コロニー内で必要な業務が頻繁に変化する状況下では、様々な業務に対応できる「ジェネラリスト」を用意したほうが良いかもしれない。このように、複数の個体でコロニーが構成されている真社会生物では、コロニー内のスペシャリスト・ジェネラリスト個体の割合自体が戦略であると考えられる。しかし、このような分業様式が何によって決まるのか、よくわかっていない。
本研究では、コロニー内における業務量の確率的変動が分業様式に与える影響に着目した。コロニーにとって必要な仮想的な2種類のタスクがあり、個体の特殊化の程度に応じて2つのタスクをこなす能力の間にトレードオフが存在するという状況を考える。環境変動として2つのタスク量が確率的に変動するとして、処理しきれなかった残存タスク量に基づいて集団の適応度が決まると仮定した。この仮定に基づき、コロニー内のスペシャリストとジェネラリストの最適な割当を計算した。
結果、環境変動のパターンに応じて多様な分業様式が生じうることが分かった。環境変動が小さい場合には各タスクにスペシャリストを、大きい場合にはジェネラリストを配置するパターンが卓越したが、環境変動が中程度の場合にはスペシャリストとジェネラリストの両方を用いる三峰性の分業パターンと、特殊化の程度の弱い「凖スペシャリスト」を用いる二峰性の分業パターンの両方が見られた。また、こうした分業様式は、タスク量の変動の生じ方によっても大きく異なっていた。以上の結果は、アリや他の真社会性動物におけるコロニー内の多様な個体差パターンを説明できるかもしれない。


日本生態学会