| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-193  (Poster presentation)

近交弱勢に関わる遺伝子変異を探る:野外長期研究個体群の全ゲノム解析
Exploring genetic variants associated with inbreeding depression: whole-genome analysis of a long-term field study population

*澤田明(国立環境研究所), 中嶋信美(国立環境研究所), 安藤温子(国立環境研究所), 高木昌興(北海道大学)
*Akira SAWADA(NIES), Nobuyoshi NAKAJIMA(NIES), Haruko ANDO(NIES), Masaoki TAKAGI(Hokkaido Univ.)

近親交配を行うと、有害な遺伝子変異の影響が顕在化することで生まれる子の適応度が低下する。これを近交弱勢という。小集団では近親交配が起きやすいため、島嶼個体群の進化や絶滅危惧種の保全において、近交弱勢は重要な現象である。ゆえに、近交弱勢が生じる遺伝的な仕組みは歴史的にも興味を持たれてきた。しかし、かつては野生動物のゲノム情報の取得が難しかったことや、集団内に保持されるような単一では有害性の弱い遺伝子変異の検出は難しいことなどから、近交弱勢の原因となる遺伝子変異の特定はあまり進んでこなかった。本研究の目的は、沖縄県南大東島に生息するリュウキュウコノハズクの全ゲノム解析を行い、近交弱勢に関わる遺伝子変異の候補を絞ることである。本個体群は、600個体ほどの小集団で近親交配が生じやすい状況にある。さらに2002年から続く長期研究で、遺伝子解析用のサンプルや個体の適応度要素に関するデータが蓄積されているため、近交弱勢の研究に利用することができる。本研究では初めに本種の新規の全ゲノム解読を行い、遺伝子変異特定のためのレファレンスゲノムを構築した。次に439例の繁殖記録について子の予後を調べ、特に高い生存率を持つ子を残した6つがいと、特に低い生存率を持つ子を残した6つがいの、2群のゲノムを調べた。各群に特有の遺伝子変異を抽出し、それが同義置換かどうかとその変異が生じている遺伝子を、ニワトリゲノムをもとに推定した。変異が入っていた遺伝子群をGene Ontology Enrichment解析にかけた結果、非同義置換の入っていた遺伝子群では同義置換の入っていた遺伝子群よりも、有意に検出されるGO Term(遺伝子の機能やタンパク質の細胞内局在を表す語句)が多いという結果が得られた。これらの遺伝子変異は子の適応度に関わっている可能性が高く、近交弱勢に関わる遺伝子変異の候補となると考えられる。


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