| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-195  (Poster presentation)

適応放散を遂げたシソ科 Oxera 属における隠蔽種の進化史推定
Inference of evolutionary history of a cryptic species in genus Oxera, a highly diverse group in family Lamiaceae

*池田隆介(京都大学), 陶山佳久(東北大学), Gildas GATABLE(IAC), 寺内真(ROIS-DS CGI), 野口英樹(ROIS-DS CGI, 国立遺伝学研究所), 井鷺裕司(京都大学)
*Ryusuke IKEDA(Kyoto Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Gildas GATABLE(IAC), Makoto TERAUCHI(ROIS-DS CGI), Hideki NOGUCHI(ROIS-DS CGI, NIG), Yuji ISAGI(Kyoto Univ.)

 シソ科 Oxera 属はニューカレドニア島で適応放散した木本植物であり、生育環境や生活形、果実形態、花形態などが高度に多様化している。Oxera 属内には、遺伝的、形態的にまとまった7つの種群が認識されており、そのうち robusta 種群は、主につる性の種からなる、橙色の鳥媒花をもつグループである。robusta 種群において近年発見された新種 O. sympatrica(以下 Os )は、同所的に生育する姉妹種 O. palmatinervia(以下 Op )から遺伝解析によって識別された。これら2種は形態的特徴が植物体全体にわたり類似するが、鳥媒に関わる花形態は異なっている。すなわち、Os は「筒型の花」(通直な花冠、短い雌蕊と雄蕊)を、Op は「角笛型の花」(曲がった花冠、長い雌蕊と雄蕊)をもつことから、ポリネーターを介した生殖隔離が示唆されている。robusta 種群の他種も筒型または角笛型の花をもつが、類似した花形態をもつ種は単系統にまとまらず、robusta 種群において花形態の平行進化や収斂進化が起きた可能性がある。Os の種分化過程や、遠縁の他種に類似した花形態の獲得過程を明らかにするために、Oxera 属8種13個体について全ゲノムリシーケンシングを行い、分岐年代と種間交雑の歴史を推定した。分岐年代推定により、Os と Op の分岐が起きたのは、各ポリネーター鳥類種が近縁鳥類種と分岐した後であるという結果が得られた。これにより、それらポリネーター鳥類種を介した生殖隔離が Os と Op の分岐初期にはたらき得たことが示された。種間交雑推定により、解析を行った種群の中では、筒型の花をもつ O. coriacea から Os への遺伝子浸透が最も明瞭に検出された。遺伝子浸透によってもたらされた他種由来の遺伝的変異が収斂進化や平行進化を引き起こしたことが、近年の多様な分類群を対象にしたゲノム解読で明らかにされてきたが、Os の筒型の花形態も同様に、O. coriacea からの遺伝子浸透によって進化した可能性がある。


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