| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-215  (Poster presentation)

阿寒湖内のマリモにおける遺伝的分化【B】【E】
Genetic differentiation of Aegagropila linnaei in Lake Akan【B】【E】

*Natsuko KONDO(NIES), Hiroshi C ITO(NIES), Nobuyoshi NAKAJIMA(NIES), Isamu WAKANA(Kushiro IWC)

緑藻の一種であるマリモAegagropila linnaeiは、世界の湖沼に分布している。その多くでは球体が形成されず、阿寒湖のように大型の球体(集合型)が群生している湖沼は世界でも稀である。ただし、阿寒湖では集合型以外に着生型や浮遊型のマリモも生息している。Boedeker et al. (2010) はITS-rRNA領域の塩基配列の変異から、世界には5つのハプロタイプが存在し、阿寒湖のマリモはそのうち2つのハプロタイプを示すことを報告した。しかし、これらのハプロタイプと形態型の関係や、各ハプロタイプの湖内分布については不明であった。天然記念物である阿寒湖のマリモの保全において、湖内のマリモの形態や生息地点間についてその遺伝的な関係を把握することは重要であると考えられる。
 本研究では、2008年に阿寒湖内の6地点から採集したマリモ31個体と採集年不明の阿寒湖以外の北海道と青森県の6湖沼のマリモ各1個体について、MIG-seq(Suyama and Matsuki 2015)で抽出したゲノム中の一塩基多型(SNP)による遺伝的解析を行った。得られた1,641座について解析したところ、解析したマリモは有意に5つのグループに分化していることが示唆された。このうち3つのグループについては、各グループに含まれる全ての個体が同一の形態型を示した。阿寒湖内から検出されたグループの湖内分布は概ね地理的に説明された。キネタンペの一部とキネタンペに近いセセキモイの個体は、達古武沼とシラルトロ湖、青森県の4つの沼のマリモと同じグループに属していた。本研究より、阿寒湖のマリモの保全や湖内の異地点間での人為的移動の際に、遺伝的な多様性を考慮する必要性が示唆された。


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