| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-218  (Poster presentation)

立山連峰のニホンライチョウにおける血縁関係
Kinship of Japanese rock ptarmigan individuals at Tateyama mountains

*山崎裕治(富山大学)
*Yuji YAMAZAKI(Univ. Toyama)

ニホンライチョウLagopus mutus japonicusは、中部山岳の高山帯にのみ生息し、絶滅の恐れの高い留鳥である。富山県立山連峰の室堂周辺に生息するニホンライチョウの個体数は、300羽程度で推移しており、繁殖のためのなわばり資源(特に空間)が飽和状態になっていると考えられる。本研究では、立山連峰のニホンライチョウを対象として、繁殖における空間利用や配偶者選択を明らかにするために、個体レベルの景観遺伝学的分析を行なった。立山連峰の室堂において、標高2360m–2450m、東西南北各500mの調査範囲を設定し、その範囲内でニホンライチョウの繁殖ペアを探索した。発見したニホンライチョウを追尾して縄張り空間を記録すると共に、排出された糞を採取した。調査の結果、8つの繁殖ペアが確認され、そのうち3つの繁殖ペアについては雌雄両方の糞を、5つの繁殖ペアについては雌雄いずれかの糞を採取した。実験室において、糞から抽出したDNA試料を対象とした多型的マイクロサテライト遺伝子分析を行い、対象とした9遺伝子座のうち、8遺伝子座においてHardy-Weinberg平衡状態が確認された。また、全個体間における血縁度の平均値は0.237と高い値を示した。繁殖ペア間の血縁度(-0.063–0.126)には、ばらつきが認められた。このうち、最も高い血縁度を示したペアを形成するオスは、0.615という高い近交係数(その個体の両親間の血縁関係の程度)を示した。一方、異なる繁殖ペアの間における遺伝的距離と縄張り間における地理的距離との間には、有意な相関関係は認められず、距離による隔離の効果は乏しいことが示唆された。以上の結果から、立山連峰のニホンライチョウにおいては、限られた個体数や繁殖空間の中で、概ねランダム交配をしながらも、その一部では近親交配が繰り返されている状態で、集団が維持されていると考えられる。


日本生態学会