| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-231  (Poster presentation)

氾濫原性の希少種ミヤマアカネ(トンボ目トンボ科)の地域個体群構造の解明
Population structure of the endangered floodplain species Sympetrum pedemontanum elatum (Selys)  (Odonata Libellulidae)

*東川航(森林総研・九州支所), 吉村真由美(森林総研・関西支所), 前藤薫(神戸大学大学院・農)
*Wataru HIGASHIKAWA(FFPRI, Kyushu), Mayumi YOSHIMURA(FFPRI, Kansai), Kaoru MAETO(Kobe Univ.)

水田や緩流河川に生息する氾濫原性のミヤマアカネ(トンボ科アカネ属)は、かつて全国的に普通種であったが1970年代以降は各地で減少している。その主要因は、水田灌漑システムの近代化によって、幼虫の生息環境である止水―流水間の移行帯水域が激減したことが挙げられ、現状では緩流河川が主なレフュジアになっていると考えられる。一方、草原を好む成虫は移動性が小さいことから、本種の保全のためには各地域における遺伝的多様性や遺伝子流動およびその要因を明らかにする必要がある。本研究では、近畿、東海および北陸の各地域と長崎県、秋田県の本種集団について、ゲノムワイドな一塩基多型(SNPs)の解析を実施し、地域個体群構造を評価した。その結果、全体的に明瞭な遺伝的分化は認められないものの、いくつかの地点ではヘテロ接合度が低く、集団の孤立が示唆された。集団構造は概ね地域間で異なり、特に近畿の一部集団では地史的な要因によるものであろう特異な遺伝集団が検出された。直近数世代における集団間の移住は、距離が約10km以内の場合においてのみ、1方向の遺伝子流動が3つだけ検出されたが、より短い距離でも移住が起こっていない場合があった。塩基多様度が周囲1km内の草地面積と正に相関したことから、草地が少ない地点では集団サイズが小さく、移入も少ない可能性がある。以上の結果から、本州以南の集団は一部を除いて遺伝的に大きく異ならないが、1970年代以降の生息水域の減少に伴って、各地で集団の縮小・孤立が進行しているものと考えられる。また、近畿の数地点では、保全単位として重要な地域固有の遺伝集団の存在が明らかとなった。さらに、成虫の移入や安定した集団の形成が見込める保全適地は、10km以内に他集団が存在し、1km以内の草地量が多い緩流河川であろうことが示唆された。


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