| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-239  (Poster presentation)

三方五湖周辺の田んぼにおけるコイ・フナ稚魚の保全手法の改善
Improvement of conservation methods for young cyprinid fishes in paddy fields around the Five Lakes of Mikata

*石井潤(福井県里山里海湖研)
*Jun ISHII(Fukui Pref.)

福井県の三方五湖に生息するコイとフナは、本地域の在来種であり、重要な漁業対象種でもある。三方五湖のコイ・フナは、春季になると周辺地域の田んぼに遡上して産卵し、孵化した仔稚魚はしばらく田んぼで成長後、降下して三方五湖へ向かうという生態をもつ。しかし、近年の圃場整備に伴い、両種の成魚が田んぼへ遡上することができなくなった。三方五湖自然再生協議会では、コイ・フナ個体群の保全策として、シュロ(人工産卵床)を使ってコイ・フナの卵を採取し、孵化させた仔稚魚を田んぼに導入する活動を行っている。田んぼでの仔稚魚の育成期間は、中干し時期の6~7月までである。筆者は、日本生態学会第69回大会において、2018~2020年に田んぼに導入した個体の成長量と生残個体数を調査した結果、1~2ヶ月程度の育成期間でコイ・フナ稚魚は一定の成長を示し、育成期間が長いほど大きく成長する傾向があること、およびその一方で、導入個体の生残数が少ないことを報告した。後者の要因の1つとして、育成期間中に用排水口から水の流出とともに逸出した可能性が考えられたため、2021年と2022年は用排水口に網を設置した。本研究では、2018年~2022年の5年間の調査結果を整理し直すとともに、用排水口に網を設置した効果を分析し、田んぼでの稚魚育成方法の改善点を検討した。
 5年間の調査結果でも、2か月程度までの育成期間において、育成期間が長いほど稚魚の全長が大きくなる傾向が確認された。回収率(=導入個体数に対する回収できた生残個体数の割合)は、網を設置しなかった2020年までで0~36.8 %(n = のべ14筆)であり、網を設置した2021年と2022年は0~74.7 %(n = のべ10筆)であった。GLMによる解析結果では、網設置の有意な効果が示された。また2021年と2022年は、中干しを行わない田んぼ(n = のべ6筆)では8月末まで稚魚の育成を試みた結果、回収率は0~8.6 %となり、8月の育成は不向きである可能性が示唆された。


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